「3人になった時に、また違うことができるんじゃないかと思ったんです。ずっと4人だったから4人でやる作り方だったけど、〈また違う発想が出るかな?〉みたいな。その意味ではおもしろかったですね」(瀬崎裕太)。

 歌謡性も豊かな歌唱とオルタナ~インディーを基調にしたダンサブルなミクスチャー・サウンドを鳴らし、約2年ぶりの新作『Joyous』を完成させたChroniCloop(クロニクループ)は、前身から活動を共にしてきたフロントマンの瀬崎とドラマーの吉成直輝、そして途中加入したギタリストの谷藤希隆という3人組。今作はベーシスト脱退を経た現体制での初作という転機の一枚にもなるわけだが、すべての詞曲を担う瀬崎が語るように、そうした状況の変化や制約は発想の転換を促し、結果的に『Joyous』はバンドのカメレオン的な持ち味をより自由に表現することに成功している。

 「昔はスタジオ入りして全員でアレンジを固めていたのが、コロナもあって4人で集まるのが厳しくなった頃から、僕が打ち込みで一旦アレンジを完成させる作り方に移行していたんです。そこから3人になって、より〈バンド〉に縛られない考え方にシフトできた。逆にライヴではサポートでベースも入るので、その音源をバンドでどう鳴らすかっていうおもしろさがありますね」(谷藤)。

ChroniCloop 『Joyous』 DOBEATU(2023)

 その柔軟な創作の成果は、瀬崎が中学生の頃からファンだったというコヤマヒデカズ(CIVILIAN)と掛け合う怒涛のオープニング“JOY”からして明らかだ。ゲストを招いた曲では女性シンガー・ソングライターの高田がピュアな歌声を重ねたメロウなラヴソング“Casper”も光る。

 「ブラックビスケッツみたいな感じで、女の子の声が入ったらグッとくるかなって。あと、恋の曲なんでアレンジしながらときめきについて考えてたら、やっぱり小田和正さんの“ラブ・ストーリーは突然に”の始めの〈トゥクトゥン〉が、ときめきの表現のすべてだと思って、バンドインに入れたんです。納得いくまで何テイクも録って(笑)」(谷藤)。

 ディスコ・パンク風の“Imagination”に続くのはTGMXにプロデュースを委ねた“若者のすべて”。シンセ・ベースの効いたサウンドはもちろん、「好きな曲のタイトルを使いたくなる」という瀬崎ならではの大胆な曲名にも注目だろう。さらにアッパーなギター・ロック“Yes”で疾走したかと思えば、情緒豊かな詞世界と色気のある旋律も絶品なスロウ“黄昏フロムユー”も控えている。

 「裕太に聴かせてもらった段階でハマって、〈どう仕上げようかな?〉ってワクワクしてました。ドラマーとしての嗜好もあるけど、こういうスロウ寄りの曲は個人的に好きで、かつ、グルーヴを攻めたアレンジを希隆が持ってきてくれたんで、良くしたいっていう欲が出ましたね」(吉成)。

 「自分的に毎回〈I Love 宇多田ヒカル〉なアレンジを入れようとしてて、グルーヴ感やストリングスのフレーズで自分の宇多田ヒカル愛を表現しています(笑)」(谷藤)。

 そんな濃密さを経たクロージングは、甘酸っぱいyuminogohanの歌唱も軽やかなダンス・ポップ“グレイプフルウツムーン”。豪快な幕開けから爽やかなラストまで意匠は多彩ながら、アルバム全体の胸躍るような起伏からは一貫したChroniCloopのカラーが伝わってくる。

 「前作『WONDERWALL』は配信した曲をまとめたものだったから、一気に10曲を仕上げるのは久々で、その意味で全曲ワクワクしながら作れました。いま出したい曲がちゃんと揃ったと思いますね」(谷藤)。

 「作る段階で統一感みたいなものは考えてなくて、でも曲ごとのアレンジをブラッシュアップしていく過程で〈意味がついたな〉みたいに感じることが多かったですね」(吉成)。

 「アルバム作るのって楽しいんすよ(笑)。ひとつのバンドなんだけどアルバムごとのカラーでいろんな自分たちになれるし、ホント自由なんですよね。そういうのが僕は昔から好きで、いまは1曲単位で聴かれることも多い時代ですけど、俺らみたいな奴らはアルバムを作ることが大事なんです」(瀬崎)。

 まさにタイトル通りの楽しい一枚。ちなみにその『Joyous』という表題は、瀬崎の覚えていた昔の英会話学校のCM中のフレーズ〈Join Us〉も掛けて名付けたそうだ。それは未来のリスナーへの呼びかけでもある。

 「聴いた人が一緒に楽しめるものを作りたかったし、今回はホントにそれが大きくて。こんなポジティヴなタイトルを付けることも僕の中では相当な変化で、自分も外向きに開けてきたと思うんです。作る過程でいろんな出会いがあって嬉しかったし、単純に作るのが楽しかったから、一緒に楽しい気持ちになってくれたら凄く嬉しいです」(瀬崎)。

 「ドラマーとしてのポリシーで言うと、聴いてる人が絶対にノッてほしいし、身体も心も揺らしたいっていう信念を持って音楽をやっていて。僕たちも楽しみながら作ったので、ノリながら聴いてくれたら嬉しいし、聴いてくれる人たちの気持ちが揺れ動いてくれたらいいなと思います」(吉成)。

 


ChroniCloop
瀬崎裕太(ヴォーカル/ギター)、谷藤希隆(ギター/キーボード)、吉成直輝(ドラムス)から成る東京・下北沢発のバンド。中学生の頃に瀬崎が幼馴染みの吉成らと前身バンドを結成し、2011年のミニ・アルバム『バタフライ スル キミト』より現名称に改名する。2014年の『聖者の行進』発表後に谷藤が加入。2017年に初の全国流通盤『パレード』、2019年に『in Rainbows』、2020年に『WONDERWALL』とコンスタントに作品を重ねる。2021年から現在の編成となり、4か月連続の配信シングルを経て、ニュー・アルバム『Joyous』(DOBEATU)を3月8日にリリースする。