今年歌手デビュー10周年を迎える上白石萌音が、ニューアルバム『texte』をリリースした。歌手/俳優として歩んだこの10年の軌跡を辿りながら、この先の10年も見据えたかのような本作について、ライターの後藤寛子にレビューしてもらった。 *Mikiki編集部
デビュー作『chouchou』のコンセプトにもう一度向き合う
2016年にミニアルバム『chouchou』で歌手デビューを果たした上白石萌音。デビュー10周年を記念してリリースされるアルバム『texte』は、『chouchou』と同じく〈映像作品にまつわる楽曲〉というコンセプトを持つ作品だ。
『chouchou』には、当時まさしく社会現象レベルのヒットを記録していた映画「君の名は。」の“なんでもないや (movie ver.)”を始め、HYの“366日”、映画「レ・ミゼラブル」の劇中歌“On My Own”など、幅広い楽曲のカバーが収録されていた。
当時『chouchou』を聴いて、彼女の原点であるミュージカルソングを歌いこなす歌唱力はもちろん、透明感溢れる歌声と繊細な表現力に驚かされたのを覚えている。特に“なんでもないや (movie ver.)”には、自身が声優を務めた作品の楽曲だからこそのリアルな感情が息づき、彼女にとって〈演じること〉を生業とする強みを堪能できた。
俳優が音楽活動を始める場合、〈演じること〉と〈歌うこと〉を切り離してギャップを出す選択もできるけれど、上白石に関しては〈演じること〉と〈歌うこと〉が地続きにあるような不思議な印象がある。きっと、どちらの核にも〈好き〉という初期衝動があるからだろう。演じることが楽しいのと同じくらい、歌うことが楽しい――そんな彼女のピュアな輝きは、その後の音楽活動でも核となっていたように思う。
彼女はデビューから10年の間に、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の主演や、ロンドンまで渡った舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」に出演するなど、役者として大役を経験してきた。〈好き〉という初期衝動だけでは乗り越えられないことも、楽しいだけで終わらないこともあったはずだ。積み重ねた経験値は、そのまま歌手としての進化にも繋がったと言える。
その歩みを振り返るように、彼女はもう一度〈映像作品にまつわる楽曲〉に向き合った。フランス語で〈お気に入り〉を意味する『chouchou』から、同じくフランス語で〈文章〉や〈台本〉を意味する『texte』へ。台本を受け取って演技プランを考えるように、より深く濃いアプローチで、多彩な楽曲に挑んでいったことが窺える。
