ファンからビギナーまで間口を広げる端唄インストセッション
アルバムの幕開けは、“春告鳥”。まるでスピーカーの奥から飛び出してくるような、リアルで立体感のある鶯の鳴き声が、聴く者を一気に〈おめでたい〉和の世界に誘い込む。
「あの鳴き声、細い竹の筒に口をつけて吹いているだけなんですよ。すごいですよね。昔の人はよく考えたな、と思います」
こうしみじみと語るのは、三味線の上原潤之助。本作において彼が考えたコンセプトは、自身が長年親しんできた端唄の世界を、三味線と笛、そして鳴物によるインストで表現するというものだ。
「江戸時代以来の伝統を持つ端唄は、四季の情景などを唄ったものが多く、歌詞の世界もとても美しいんです。しかし、本作ではあえて唄を入れない選択をしました。歌詞にとらわれず、BGMとして楽しめるようにすることで、純邦楽のファンから初心者まで、とにかく幅広い層の方々に届けられると思ったんです。また、端唄のインストアルバムというのは、実はとてもレアな企画なんですよ」
前例のない録音に参加したのは、上原が長年にわたって信頼関係を築き上げてきた米谷和修(篠笛・能管)と梅屋喜三郎(鳴物)の二人。普段はあくまで唄をサポートする役割の楽器奏者たちが、代わるがわる主役を務めながら、“お江戸日本橋”“梅は咲いたか”“かっぽれ”をはじめとする馴染み深い曲の数々を奏でていく。「私が考えた構成に米谷さんと梅屋さんが肉付けをしていきました」というセッションは、華やかで豊饒な江戸の薫りを表現する一方で、奏者間の息遣いまで伝わってくるような緊張感も併せ持つ独特なものとなった。また、楽器のやりとりの中に、しっかりと〈唄〉が聴こえてくるのも特筆すべき点である。
「あくまでも奏者全員が主役なので、出るところはしっかり出て、より緩急をつけた演奏を心がけました。また今回は、ジャズのセッションのような一発録りに挑戦しています。その緊張が演奏にも出たと思いますし、録音を担当してくださった田中三一さんの技術も素晴らしいですよね」
唯一収められたオリジナル曲“ひだまり”は、それぞれの楽器がいちばん映える音使いを意識して作ったという。こんなところにも「純邦楽を知らないリスナーにも届けたい」という気持ちが込められている。もちろん純邦楽ファンにとってもアレンジの妙をはじめ、聴きどころがたくさんある。横山智子による味わい深い絵画を起用したジャケットとともに楽しみたい。
INFORMATION
上原潤之助「街の三味線教室」
都内(杉並区)での通常レッスンの他、オンラインレッスン、出張レッスンも行っております。まずはお気軽に、無料体験にいらして下さい!
https://jssounds.jimdofree.com/