EGOISTの楪いのりとして歌声を知られたchelly――その内側を表現したソロ・プロジェクトは、待望のファースト・アルバムで何を届ける?
TVアニメ「ギルティクラウン」に登場する謎めいた歌姫、楪いのり。彼女を擁する架空の音楽集団・EGOISTは2021年でデビュー10周年を迎えた。楪の歌声を担うヴォーカリスト、chellyはその道程をこんなふうに振り返る。
「EGOISTとしての活動は、演じながら歌ってきた10年だったなあって。ただそれだけに、〈自分の内側にある何か〉を表に出すことはなかったなと。節目のタイミングに、それをやってみたいと思ったんです」。
そうして開始したrecheとしてのソロ活動。昨年は丸1年かけてシングルを連続配信してきた彼女が、楽曲とイラストを対にした初アルバム『gallery#101』を完成させた。幕開けは、公募企画を通じて出会った青木千春&永田範正による音楽ユニットca(+nn)の飛翔感に満ちたミディアム“imagination”。川上リョウが描いた雨上がりの画と共に、始まりの予感を伝える一曲だ。
「青木さんと永田さんは、はじめましてとは思えないぐらいの曲を書いてくださって。歌詞もソロとして駆け出しの私の心情を想像してくださったと思うんですけど、自分の中で腑に落ちるところがあって、特別な一曲になりました」。
続いては、お村ヴィレッジ × Unknöwn Kunの英語詞曲“Amazing Grey”と、ガーリーな掛け合いを見せる柏木ちさめ × philoiの“前も晩”。いずれもrecheのキュートな魅力が弾けるナンバーだ。
「お村さんとUnknöwn Kunさんは、幻想的な雰囲気と遊び心が共通点なのかなと。“前も晩”は日本語、中国語、英語と3か国語で歌っていて、歌に登場する二人だけで生きてきた裏のストーリーを想像できる曲になったと思います」。
さらに、儚い歌唱が耳に残る旳(diesel)× Mica Calditoの“There Is Still Wonder Left To Behold”、気怠いラップがリードするまくらくらま × Noz.の“RAKUEN”、たゆめる × Haru.Robinson × 大野裕一の和風ラヴソング“榛摺”と、ソロならではの試みはまだまだあちこちに。
「Mica Calditoさんは“imagination”とはまた別のヴェクトルで私のいまの気持ちを書いてくださってるのかなって。海辺で独り、大事なペンダントを握りしめながら〈大丈夫〉って自分に言い聞かせてるようなイメージで、囁くような歌を意識しました。“RAKUEN”のラップは家で一生懸命〈コソ錬〉して(笑)。英語詞と同じで、聴き心地の良さをめざした感じです。“榛摺”に関しては、こういう苦しい恋心は自分にない感情なので、想像力を膨らませて歌ってみました」。
また、三上唯 × 平田博信の開放的なダンス・ポップ“IF”と、夜宮さてこ × Yusuke Karino × 永田範正の疾走ロック“Liar!”では作詞を、諌山実生 × TATOOのジャズ歌謡“クロイモリ”ではイラストも披露している。
「“IF”はまず夏の蜃気楼みたいなイメージが浮かんで、そこから連想したのがここで書いた実体験です。〈イマジナリーフレンド〉っていうんですけど、小さい頃に毎日親しく遊んでくれた想像上の友達との不思議な体験をおしゃれに落とし込んでみました(笑)。“Liar!”は社会に対する〈おこ〉な気持ちを素直に書いてみた感じです。“クロイモリ”は孤独を感じている主人公を一匹狼として例えている曲ではあるんですけど、イラストで狼そのものを描いてしまうとイメージが固定されちゃうじゃないですか。それを避けるためにあえて人型の絵を描いたり、こまごまとした工夫をしています」。
そうした多彩なアプローチを締め括るのは、“imagination”と同じca(+nn)の二人が綴った無国籍なバラード“足跡”。河原雪花のイラストも優しい光を添えている。
「“足跡”は“imagination”と世界線を共有している曲。“imagination”が一歩目の踏み出しの曲なら、“足跡”はここからの踏み出しの曲というか……私のソロとしての活動期間はまだ短いですけど、そのなかでも充実した経験をして、足跡を振り返ったらまた新しい夢を見つけた、みたいな。無国籍なアレンジは、私の好みを拾ってくださったからだと思います。私、変わった音が鳴っている曲や、変拍子の曲が好きなんですね。ゲームのサントラが好きなので、そこからきているのかなと」。
なお、本作は10曲入りの通常盤に4曲を追加したボックス盤も登場。ももぢる氏によるジャケットも個別に用意され、曲順も変えることで別の角度からの今作の楽しみ方を提案している。
「ボックス盤ではピクチャーカードの紙質も少しずつ変えていたりといろんな遊び心が含まれているので、どんなふうに受け取ってもらえるのかめちゃめちゃ気になります。ものづくりに対するこだわりはしっかり持って、今後も活動していきたいです」。
EGOISTの2022年のシングル“GOLD”(SACRA MUSIC)
recheが客演した近作を一部紹介。
左から、MY FIRST STORYの2020年のシングル“1,000,000 TIMES”(INTACT)、まらしぃの2022年作『まらフェス2022 EP』(Subcul-rise)