新しい季節がやってくるように人生も変化する。3人組のロック・バンド、Bluemsが〈生活の設計〉という名前で新たなスタートを切った。改名した理由は音楽性が大きく変わったこと。フロントマンの大塚真太朗はこんなふうに説明してくれた。

 「Bluemsのときは、クラウド・ナッシングスとか同時代の海外のインディー・ロックが好きだったんです。でも以降、60~70年代のロックやシンガー・ソングライターの作品を好きになって、そういう音楽を3人組のサウンドに落とし込めないかと思うようになったんです。やってみたら、そっちのほうが自分に合っていることに気づいた。それで音楽性と名前を変えて再出発することにしました」。

 そして、心機一転。生活の設計のファースト・アルバム『季節のつかまえ方』が完成した。アコースティック・ギターの軽やかな音色を聴かせつつ、風通しの良いバンド・サウンドにヴァイオリンやフルート、キーボードなどの多彩な音色が色を添える。

 「Bluemsではギターを歪ませていたんですけど、今回はクリーンなトーンでシンプルな演奏にしました。そのぶん、曲に必要だと思われる楽器があれば、ライヴでの再現性を考えずにどんどん入れたんです。例えばフルートは昔から好きだったんですけど、今回初めてトライしてみたら上手くハマって嬉しかったですね」。

生活の設計 『季節のつかまえ方』 DesignforLiving(2023)

 口ずさみたくなるような親しみやすいメロディーに加えて、滑らかなグルーヴも彼らの魅力だ。ジャズやソウル・ミュージックからの影響を感じさせるのは、彼らがリスペクトするシュガー・ベイブやフィフス・アヴェニュー・バンドに通じるところがある。さらにヒップホップ的なビートを取り入れるなど、フィジカルな気持ち良さや開放感を感じさせるのは、曲作りをする環境の変化も大きかったようだ。

 「車に乗ることが増えたので、アコースティック・ギターを車内に持ち込んで、運転に疲れたら路肩に車を止めて曲を書いているんです。車で走っているときの気持ちよさ、車窓から見える街の風景。そういったものが曲に影響を与えていると思いますね」。

 街と季節をテーマにして日常の風景を切り取った歌詞からは、はっぴいえんどから始まる〈日本語ロック〉の歴史を受け継ごうとしていることが伝わってくる。そんななかで、往年のポップスへの愛情をストレートに歌った“むかしの魔法”は、小西康陽が〈7インチのアナログで欲しい曲の第1位〉と絶賛。彼らが〈むかしの音楽〉をリスペクトしながら、そのエッセンスをいまに受け継いでいることを、小西は高く評価しているという。大塚にとって、60~70年代ポップスの魅力とはどんなところなのだろう。

 「すごく明るくて楽しい音楽なんですけど、コード進行が凝っていたり、アンサンブルが複雑だったりするところですね。サラッと聴けるけど奥が深いというか。自分たちもそんな曲を作りたいと思っているし、そういう気持ちはこのアルバムに表れていると思います」。

 そんな彼らのフレッシュな想いが詰まった『季節のつかまえ方』は、季節に例えれば春を思わせる瑞々しさがある。ちなみにユニークなバンド名は大塚が好きな古いコメディー映画のタイトルから取られているが、彼らの音楽への向き合い方を表す言葉でもあった。

 「〈生活を設計する〉というのは、例えば部屋に花を飾ったり、ちょっとしたことで心に余裕を持つことだと思っていて、音楽を聴くこともそこに含まれている。半径5メートルの世界を歌う自分たちには、ぴったりの名前だと思ってます」。

 きっと一輪の花のように、生活の設計の音楽はリスナーの日常を豊かにしてくれるだろう。

 


生活の設計
大塚真太朗(ヴォーカル/ギター)、辻本秀太郎(ベース)、大塚薫平(ドラムス)から成る3人組バンド。恋する円盤のメンバーだった大塚兄弟を中心に、2016年1月にBluemsとして結成され、同年の〈SUMMER SONIC〉に出演。2018年の12月にファースト・ミニ・アルバム『恋について』、2020年2月に両A面シングル『夢うつつ’19/Modern Tears』を発表。2023年より現名義へと改名し、このたびファースト・アルバム『季節のつかまえ方』(DesignforLiving)をリリースしたばかり。