(左から)村尾ケイト、坂井玲音、アラユ

脆弱なハートを掻きむしるような歌詞。オルタナティブロックやエモの文脈をふんだんに感じるサウンド。そんなナードでフリーキーなロックへの愛と、ジャンルやフォーマットにとらわれることなく、自らの道を切り拓こうとする、ときに解放的でときに挑戦的なサウンドスケープが混ざり合いながら、今を生きる我々に捧ぐ物語を展開する。オリジナリティとアルバムであることの意味をとことん追求した作品。それがApesのファーストフルアルバム『PUR』だ。

そして、アルバムの最後の最後に坂井玲音は〈光の向こうへ 今を追い越して〉と歌う。彼らにとって今はどう映っているのか。そして未来にどんなことを願っているのか。バンドのルーツやアルバムの魅力とともに、話を訊いた。

Apes 『PUR』 Wakusei disk/Jisedai inc.(2023)

 

趣味はバラバラ、ひねくれ者の3人

――Apesの背景には、90年代~2000年代のオルタナロックやエモを強く感じるのですが、いかがですか?

坂井玲音(ボーカル/ギター)「3人とも趣味はバラバラなんですけど、共通して好きなバンドとしてまず浮かぶのはNOT WONKですね。音楽性はApesとは違えど、曲作りやライブにおける音作りの面で影響を受けています。あとは、90年代あたりのUKロックはみんな好きな気がします。レディオヘッドとか……それしか出てこないから、そうでもないかもしれない(笑)。

こうして振り返ると、3人で作品を作っていくうえでの絶対的なルーツと言えるジャンルは特にないですね。そういう話もほとんどしないし、その時々でやりたいことも変わりますし」

アラユ(ギター)「僕が前に所属していたバンドはApesとはある意味、対照的で、明確に90年代のオルタナティブロックやシューゲイザーをやっているバンドでした。

その反動というわけではないですけど、次にやるバンドはそれらとは違う音楽性で、なおかつオルタナティブロックやシューゲイザーを突き詰めていた自分のポテンシャルを活かせるようなことがしたかったんです。そんな気分にApesというバンドはぴったりでした。自分はファッションもすごく好きで、そういうのも発揮できそうだと思って」

村尾ケイト(ベース)「僕がApesの前にやっていたバンドは、ライブでのお客さんのリアクションを考えながら曲を作るなど、他者の反応ありきのスタイルでした。

それに対してギャップがあったのですが、Apesは、内向きな音楽を作っているわけではないんですけど、誰にどう思われたいかではなく、自分が今何をやりたくて何を伝えたいのか、お互いの個性を持ち寄ってバンドとしてのアイデアを練るやり方なんです。そうしてアウトプットしたものが聴いてくれた人たちにどう作用するのかに興味があるんですよね。

僕はどちらかと言えば一人が好きだし、内向的な性格なので、Apesでは音楽面でもプライベートな自分とシームレスにやれているような感覚ですね」

坂井「曲は僕が作っています。例えばリファレンスとなる曲やジャンルの様式に倣ってじゅうぶんいいと思える曲ができたとして、だったらそこで止めておけばいいものの、ちょっと変な違う要素を入れたくてウズウズしてくるんです。そういう性格なので、メンバーにも僕からは出ないアイデアを入れることを求めてしまうんですね。全員、好みがバラバラだし、ひねくれていますし(笑)。

だから、もともと共通して好きな作品やジャンルの話で盛り上がるというよりは、そうではないお互いの趣味をプレゼンし合うことでケミストリーが起きている部分のほうが大きいと思います。『ストレンジャー・シングス』を好きになったりとか(笑)」