嫋々(じょうじょう)とした哀感にあふれて胸が抉られる――デマレ“深き淵より”、身体の喜ぶ音楽とはこういう曲を言うのだろう――グラウプナー“いまこそ謙虚になりなさい”。ここでは12世紀の修道女ビンゲンから18世紀のモーツァルト登場まで〈古楽〉と呼ばれる時代の音楽を、史実をもとに一部空想を交えて描いた60のエッセイにより年代順に紹介している。物語風の書き出しは、その作曲家のある象徴的な1日と場所を活写しているので、遙かなる時代に忽ち惹き込まれてしまう。そして紹介された音楽を耳にすると、その時代の人々のぬくもりや息遣いまでもが響いてくる。こんな素敵な音楽ガイド、なかなかない!