沖縄民謡とレゲエの共通点とは
現在のHARIKUYAMAKUの音楽の根幹を成すひとつの大きな軸は、間違いなくビート・ミュージックだ。2000年代後半から2010年代にかけて、フライング・ロータスらを輩出したムーヴメントはピークを迎えていたが、その時代にHARIKUYAMAKUもビートを作り、CD-Rに焼いて手売りしていた生粋のビートメイカーだった。ただ、彼は民謡の存在を忘れなかった。
「〈民謡はダサい〉とかには絶対にならなかったですね。カッコいいってわけでもなかったんですけど、なんかこう、ちょっと特別ではあったと思います」。
その〈ちょっと特別〉な存在が、彼に転機をもたらした。バックパッカーで東南アジアを巡る旅を経て民族音楽への興味が湧き、やがて沖縄の音楽を再発見することになる。
「他の国の音楽を探してんのに沖縄の音楽はよう知らんな、みたいな気持ちになってきてからですね。沖縄の音楽を自分なりに意識して、民族音楽的な視点で聴くようになったんです」。
そして、沖縄の音楽を自分のトラックに取り入れるようになった。同時にダブにもハマり、そのふたつがトラックで融合した。そうしたアプローチの後押しをしたのが、京都から沖縄に拠点を移したDJのSINKICHIだったという。
「今回の『Mystic Islands Dub』のマスタリングをしていただいたSINKICHIさんは、もうとんでもなくいいDJで、昔から大好きなんですけど、自分には畏れ多い人だったんです。でも、音源にすごく反応してくれて、〈ライヴをしなよ〉って最初に誘ってくれた。そこで初ライヴをしたのを覚えてますね。SINKICHIさんはエンジニアとしても凄いので、作業を見ながら技を盗んでました(笑)」。
沖縄の音楽とダブ、その交わりには確かな手応えを当初から感じていたが、実際に制作することでその理由は明らかになった。
「作ってみると、本当にハマったのは裏ですね。裏でリズムを取るのがレゲエの特徴でもありますけど、沖縄の民謡も本当にそうで、まずリズムの取り方が一緒だった。あと、沖縄の民謡にないものがベースなんです。低音のメロディー楽器がないんですけど、逆にレゲエはベースがいちばん目立つ音楽だなと思ってたので、沖縄の音楽に低音を付け加えるっていうおもしろさがありましたね」
まさにピンポイントで音楽的な共通点と補うものが見つかったと言える。
「本当にそうですね。沖縄の民謡では、囃子も絶対に裏なんです。囃子が録音されてない曲だとしても、例えば盛り上がったときに〈イエーイ〉って言うんじゃなくて、みんな〈ハ、ハ、ハ〉と裏で言うんですよね。それをレゲエの裏打ちにまた転換できて、まさに補完し合える関係というか。そこにすごい興奮しながらやっていました」。