滋味深い歌声と、土の香りのするアンサンブルを重ねながら、市井の人が日々の営みのなかで感じる歓びや哀しみを紡ぐ――そんなカントリー音楽に惹かれているシンガー・ソングライターが、神戸出身の眞名子新だ。
「中学校のときにハナレグミを聴いて、音楽を好きになり、大学に入学してから弾き語りを始めたんです。そのタイミングでボブ・ディランにハマり、フォークを熱心に掘りました。でも、フォークにちょっと飽きたかも……となったとき、ルミニアーズやマムフォード&サンズといったバンドを知り、〈カントリーっていいな〉と思ったんです」。
当初は〈神戸のあらた〉として2016年より活動を開始した彼は、2022年7月に本名にあたる現名義へと改め、2023年6月に初の全国流通盤となったEP『もしかして世間』をリリース。軽やかなリズムがゴキゲンなカントリー・ポップから、親密さの漂うフォーキーなバラードまでを収録した同作は、少なくないリスナーに眞名子との出会いをもたらした。
「活動しはじめた頃は、いわゆる〈弾き語り〉というか、もっとフォークっぽい歌を歌っていたんですけど、徐々にカントリー的な音に近付いていきました。ギターを弾くうえで、リズム感を意識したことが大きかったかな。フォークは演者と聴き手が一対一の関係になれる音楽やと思うんですけど、カントリーはみんなが一体となって楽しむことができるという印象。僕はそっちをしたいんですよね」。
そう語った眞名子が「自分のやりたい音楽をいちばん表現できた曲」と表すのが、このたびリリースされたセカンドEP『カントリーサイドじゃ普通のこと』の冒頭曲“ライリーストーン”だ。ドタバタと性急なドラミング、賑やかなギター・ストロークに胸を躍らせずにはいられないこの曲は、カントリーやアメリカーナに特有の祝祭感を湛えた楽曲と言えよう。
「アコギを使いつつ、速い曲を作るのに難しさを感じていたんですけど、“ライリーストーン”が出来たことでひとつ先に行けた感覚があって。3曲目の“スターシップ”も方向性は近くて、これはマムフォード&サンズの“Little Lion Man”を参考にしました。“スターシップ”は2曲目の“月の兵士”と対比になっている曲で、兄の書いた歌詞にも共通した景色が出てきます」。
眞名子新のおもしろいところは、実兄のmotokiがほぼすべての歌詞を手掛けていること。弟が作詞するにあたって、文才に長けていた兄に助言を求めたことから、この体制が始まったそうだ。
「兄から歌詞が先に来て、それから曲を作ることも多いですし、だいぶ積極的に関わってくれています(笑)。兄の言葉に僕がメロディーを付けたり、兄の歌詞を歌ったりすることで、彼の意図しないニュアンスや広がりが出ることもあって、化学反応が起きていると思いますね」。
ライヴハウスでの奇妙な出来事を着想元にしつつ、ミュージシャンとしての信念を歌っているようにも聴こえる“ニューアイズ”、「作りながら自分で感動して泣いちゃった」という優しさに溢れた“一駅”、ブルースハープが心地良い風を運ぶ“川沿い”と、EPの後半には、シンガー・ソングライター然とした3曲を収録している。
「僕は声がデカいので、部屋で歌うと隣人から苦情が来てしまうんです。なので、よく家の近くの川べりで、歌いながら曲作りをしていて。“川沿い”にはそのときの気持ちが入っています。〈いつも、いっぱい歌わせてくれてありがとう〉という川への感謝を込めた楽曲ですね」。
四畳半フォークならぬ、リバーサイド・カントリー。自然の匂いと共に育まれた眞名子新の音楽は、それゆえに大きなスケール感を持っている。この歌が山あいのフェスティヴァル会場にて大観衆のシンガロングとダンスを引き起こす――いまはそんな日を心待ちにしたい。
眞名子新
97年に神戸で生まれ、同地で育ったシンガー・ソングライター。2016年から〈神戸のあらた〉として活動を始め、2022年7月に現名義へと改名。現在は東京を拠点にしている。2022年8月のファースト・シングル“僕らの大移動”以降、配信でのリリースをコンスタントに続け、2023年4月に初の全国流通盤となるファーストEP『もしかして世間』を発表。知名度を高めていくなか、このたびセカンドEP『カントリーサイドじゃ普通のこと』(SPACE SHOWER)をリリースしたばかり。