“窓の向こうの光”を見つめていた昭和の大作詞家の名曲集
日本を代表する作詞家である山上路夫の作家生活60周年を記念する集大成ボックスが登場した。一昨年に出た『ビクター・トレジャー・アーカイヴス~山上路夫ビクター・イヤーズ』は、ビクター専属時代(1960~66年)の初期作品を収めた2枚組で、全40曲中21曲が初CD化といううれしい内容だったが、今回は120曲を収録した5枚組。まさに集大成と呼ぶにふさわしい充実ぶりだ。
初の大ヒットとなりレコード大賞新人賞にも輝いた佐良直美“世界は二人のために”(ビクター盤にも収録)以下、タイガース“廃虚の鳩”、トワ・エ・モワ“或る日突然”、由紀さおり“夜明けのスキャット”、小柳ルミ子“瀬戸の花嫁”、ガロ“学生街の喫茶店”、天地真理“恋する夏の日”、そして赤い鳥“翼をください”他、昭和世代なら誰もが口ずさめる名曲ばかりを満載したディスク1 & 2。〈レア・ソングス〉と題されたディスク3は、作曲の村井邦彦が自分で歌いアルファ・ミュージック設立のきっかけにもなった“朝・昼・夜”や荒木一郎“あなたに寄せて”、団次郎“甘い予感”など知名度は低いけど見逃せない秀曲集。デューク・エイセス“忍者部隊月光”で始まるディスク4は里見浩太朗&横内正“あゝ人生に涙あり”(水戸黄門)、天知茂“昭和ブルース”(非情のライセンス)などTVドラマやアニメ、映画の主題歌集。冨田勲作曲の竹脇無我“だいこんの花”(同)には泣いた。ディスク5は、山上の職業作詞家としての原点だったCMソング(いずみたくとは600曲以上を書いた)をメインに、外国の作曲家(フランシス・レイやロジャー・ニコルズ他)と組んだレア曲までを収録。日本の元祖ソフト・ロックの貴重な記録でもある。
なかにし礼の歌詞の底流には“棄民の哀しみ”が、岩谷時子には“乙女のイノセンス”があったとすれば、山上の歌詞はいつも“窓の向こうの光”を見つめていた。
それは、思春期に何年間も病床に臥せった彼自身の視線であり、昭和という時代の希望の象徴でもあった。本作を監修し、充実したブックレットも作ってくれた濱田髙志氏にも心から感謝したい。家宝にします。