作品と二人三脚で〈年輪〉を刻む岩崎宏美の航跡群
昨年のタワレコ日本上陸40周年記念企画として、世界初SACD/CDハイブリッド盤化が進行中の宏美盤。各700枚の完全生産限定盤だが、私的にはオトナ買いの好機/待望の仕様群ゆえ全作揃える所存だ。4年前の秋、愛車のAMラジオから流れる岩崎の“許さない”に初めて触れた日の情景を鮮明に憶えている。検索したら通算53枚め(デビュー25周年時)のシングル曲、作詞にドリアン助川を迎え、作曲は筒美京平。〈殴ってもいいですか/あなたの胸を〉の詞に即、山上路夫:作詞“春おぼろ”の〈怒っているでしょ/ぶってもいいのよ〉を連想したが案の定、件のB面は後者のLIVE版が飾っていた。アルバム未収録(昨秋復刻の『パンドラの小箱(+4)』にボーナス・トラック収録)の“春おぼろ”も阿久悠の筆と誤解している向きが意外と多いが、そんな刷り込み自体が岩崎独自の、至宝性の一端を物語っているだろう。阿久は自身の作品群から「岩崎宏美に触発されて書いた詩を取り除くと、かなり色合いが違って来る」と、自著で書いている。百恵/淳子の成功例を引きつつ、宏美の場合は「架空とか虚構の手段を選ばずに、きちんと年齢とつきあいながら、最も困難な、二十歳を越えることに成功した歌手であった」と、歌手と作品が二人三脚で年輪を刻んだ好例と綴っている。卒業に涙した“思秋期”を経て、結婚を反対される二人を描いた“春おぼろ”、その後の成熟と喪失の集大成的な秀作“許さない”……阿久→山上→助川と作者は変わりながらもヒロイン(像)の精神的バトンは脈々と継がれていた。そんな日本人歌手は稀だろう。
今回の3作は、ブルコメの“すみれ色の涙”からブレバタの“ともしび”も聴ける1981年の邦楽カヴァー集。やはり宏美自身がプロデュースに名を連ね、二様の“聖母たちのララバイ”や、作家陣の多彩さが堪能できる1982年の最大ヒット盤。そしてD.フォスターをはじめエアプレイ人脈が脇を固めた2度目の米国LA録音盤(1984年)。20代前・中期の歌唱が輝く!