
ボッサ風“威風堂々”から“ミッション:インポッシブル”と融合した“ボレロ”まで
――では、アルバムの内容について細かくお話を伺いましょう。オープナーの“ラ・カンパネラ/リスト”から鮮烈で、心を掴まれますね。
「リストが手掛けたピアノの難曲で、先日亡くなられたばかりのフジコ・ヘミングさんの演奏で大衆的な知名度も高い人気曲ですが、19世紀きっての名手パガニーニが書いたヴァイオリン協奏曲第2番(第3楽章“鐘のロンド”)がオリジナルです。
今ではピアノのイメージがあまりにも強いので、それをヴァイオリンがメインでどうやったらカッコよくカバーできるかを考えて、いろいろ模索しているうちにラテンのリズムがぴったりハマるかなという結論に至ったのです。ただアルバムの1曲目はトリオだけで行こうと決めていたので、チェロのピチカートを効果的に使ってパーカッシブになるのを狙いました」
――ゲストの岡本さん(打楽器奏者)が参加された2曲目“トルコ行進曲/モーツァルト”もピアノ曲のイメージを覆す超パーカッシブなラテンナンバーに仕上がっていて、冒頭の2曲からノリノリで突っ走るのかと思いきや、3曲目“威風堂々/エルガー”はウインドチャイムのキラキラサウンドも印象的な寛ぎのボサノヴァナンバーになっていて驚きました……あの華やかで力強いセレモニー的な行進曲が!
「日本人にとっての“威風堂々”って、それこそ吹奏楽部がフィナーレで颯爽と演奏しきって部員一同がやり終えた感で涙するような感動曲なのですが、実は勇ましいだけでなくメロディーはどこか優しいことに気が付いて、それで穏やかなボッサ風にしました。
でもポップスっぼくはならないように、イントロに主メロじゃないモティーフをもってくるなどのひねりも加えてみて、楽しかったけど意外とアレンジには苦労しました」
――同じリズムが繰り返される中で次々と異なった楽器構成によって主旋律が奏でられ最後は大編成になる、あの傑作バレエ曲をとりあげた4曲目“ボレロ/ラヴェル”も〈あれ? これで終わり?〉と思った次の瞬間から、“Mission: Impossible”というか“Take Five”に繋がり……。
「トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズが大好きで、あのテーマ曲の楽しさを何とかクラシック曲と融合できないかと考えていたらラヴェルの“ボレロ”に思い至ったんです。
ただ実はこのメンバー3人とも5拍子の曲が苦手で、私も普段は頼まれても〈ドクターストップがかかっていて出来ません〉ってお断りする案件なのですが(笑)。でもやるなら徹底的にやってやろうと思って、ジャズで5拍子と言えば……の“Take Five”を重ねてやろうと。
フィナーレでパーカッションのソロに『ミッション:インポッシブル』のイントロがチェロで加わり、華々しくあの“ボレロ”オチが再現されますのでご期待ください」

故人への思いを込めた“Bridging the Skies ~天空にかける橋~”
――今回のアルバムには3曲のオリジナルナンバーが含まれていますね。ラストトラックの12曲目“スロベニア組曲 風”についてはまた後ほど伺うとして、先ずはノンビブラートに近い伸びやかなヴァイオリンの響きがピースフルな雰囲気を醸し出す5曲目“Bridging the Skies ~天空にかける橋~”から。
「尊敬していた小澤征爾さんやフジコ・ヘミングさんだけでなく、プライベートでも同年代の友だちなど、昨年から今年にかけて大切な人が天国に旅立ってしまい、何とも言えない寂しさを噛みしめていました。
これから年齢を重ねるにつれ、そういうことも増えていくのかと思うとやりきれなくて、せめて亡き人と音楽で繋がっていたい、想い出を忘れたくないという気持ちを込めて書き下ろした新曲です」
――それに対して次の6曲目“ハンガリー舞曲 第5番/ブラームス”はどこか不気味で不穏なムードがします。
「クラシックのエレガントなアレンジだけだと面白くないので、少し危険な香りを加えたいと思い、ピアノがオスティナート(ある種のリズムや同じ音程、コード進行を反復し続けること)をしているところに管楽器などが颯爽と入って来る、ドラマのBGMとかでもよく使われるパターンにヴァイオリンで挑戦してみました。マイナーキーでアタックが良い“ハンガリー舞曲”なら皆さんもよく知っている曲なのでぴったりですね。ピアノの原田さんに頑張ってリフを書いてもらいました」
――でも、続く7曲目“きらきら星/モーツァルト”が明るいカフェミュージック風で救われますね。
「幼稚園の頃に人前で初めて演奏した大好な曲なんです。グロッケンを使って可愛く仕上げてみました」