ECMの名カルテットによるライブ音源に想う、ジャズにおける伝統の継承
ポーランドのジャズ・シーンの代表的存在だったトランペット・プレイヤーのトーマス・スタンコは1993年、マルチン・ボシレフスキ(ピアノ)とスラヴォミル・クルキエヴィッツ(ベース)、ミハウ・ミスキエヴィッツ(ドラムス)という、当時気鋭の若手によるトリオを擁したカルテットを結成。2002年から2006年にかけてECMレーベルから3枚のスタジオ作品を発表した。リーダーのトーマスは惜しくも2018年に他界したが、今回、2004年9月にECMのお膝元でもあるミュンヘンのムファットハレで行われたカルテットの演奏を収めたライヴ・アルバム『September Night』の発表を機に、マルチンに取材する機会を得た。
マルチンとスワヴォミルは共に1975年生まれの音楽高校の同級生で、1990年にシンプル・アコースティック・トリオというグループを結成し、1993年にミハウの参加によって、現在に至るトリオのメンバーが確定した。「僕らが初めてトーマスと共演したのは1994年のことで、僕らはまだ若くて技術的にも未熟だったけれど、彼は僕らがとにかくワクワクしながら音楽を演奏するのを気に入ってくれて、ポーランド国内のテレビ番組や劇伴などの録音の仕事を回してくれるようになった。そうやって、彼は僕らに少しずつスタジオ経験を積ませて、2001年にECMでカルテットの最初のアルバム『Soul Of Things』を録音したんだ」
マルチン自身は「未熟」だったと言うが、シンプル・アコースティック・トリオが1995年に録音した初めてのアルバムで、ポーランドのジャズをけん引する存在だったクシシュトフ・コメダに捧げた『Komeda』を聴く限り、この時点ですでにトリオの個性は確立していたように思える。「でも、あの頃のトーマスは、ボボ・ステンソンやアンダーシュ・ヨルミン、トニー・オクスレーといった、ヨーロッパを代表する人たちとカルテットを組んでいたから、僕らにもより高いレベルのものを求めていた。そんなトーマスと一緒に演奏できた僕らには、楽しい思い出がたくさんある。今度出るライヴ盤は、その活動の成果が収められているんだ」
マルチンの話を聞いていると、ウェイン・ショーターと活動を共にしたダニーロ・ぺレスとジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドの、チルドレン・オブ・ザ・ライトのイメージが重なってくる。どちらも偉大なリーダーの音楽を超えて、その創造性を受け継いでいる。