前衛の突端に屹立する、故・高柳昌行の発掘音源2作。

 いや、これはまたとんでもない音源が眠っていたものだ。高柳昌行の遺品の中から貴重で希少きわまりない音源がふたつ発掘された。20代で没したサックス奏者・阿部薫とのデュオ作『リアルジャズ』(70年)と、新宿文化劇場でのライヴを収めた『インスピレーション&パワー14』完全版(73年)である。風雪に耐えうる強度と深度を備えた両作は、今聴いてもまったく古びていない。いや、前衛の突端に屹立する作品として、永遠に褪色することはないだろう。

高柳昌行, 阿部薫 『リアルジャズ』 JINYA DISC(2024)

 『リアルジャズ』は、同じく阿部薫と組んだ『解体的交感』前夜の、40分に及ぶインプロヴィゼーション1本勝負。阿部のサックスがエリック・ドルフィーより巧い、などと評されるのもあながち誇張ではない。野生動物の咆哮や唸りのようなその響きと、高柳の苛烈なノイズ・ギターが不即不離で繰り広げる即興演奏の極北。戦慄する他ないだろう。また、サウンド・エンジニアによって可能な限りの復元が施されており、音の厚みや重みは申し分なしだ。

高柳昌行, 井野信義, 山崎比呂志, ジョー水木 『『インスピレーション&パワー14』完全版』 JINYA DISC(2024)

 一方『インスピレーション&パワー14』完全版は、高柳率いるニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ名義でのライヴ。この日の演奏は、トリオ・レコードからのLPに最後の約10分だけが収録されていたが、本作は紛うかたなき完全版。全体像がようやく露わになった、という感動以前に、その激越きわまる音塊の奔流に圧倒され、言葉を失う。

 山崎比呂志、ジョー水木というふたりの打楽器奏者の力感に富むリズムも凄まじいが、井野信義のタガが外れ暴発したようなチェロの軋みには、絶句するのみだ。なお、元々、断片的な録音をつないだ音源だったものに、高柳に師事した大友良英が手を入れ、1時間にわたるほぼ完全な状態のライヴ録音として甦らせている。憶測だが、昨今話題のメアリー・ハルヴァーソンもまた、高柳に魅せられたギタリストのひとりではないだろうか。永遠の名盤と言える2作、時代も領域も超越した古典として聴き継がれてゆくことだろう。