「作曲家のアイデアこそが私の〈ボス〉です」
1990年にブルガリアのソフィアで生まれ、ドイツで学び、現在はパリを拠点に活躍するヴァイオリニストのリヤ・ペトロワが〈ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024〉に参加するため、6年ぶりに来日した。2020年以降のディスクをリリースする〈Mirare〉レーベルの日本発売元、キング・インターナショナルがアレンジしたインタヴューは5月5日、ナタナエル・グーアン(ピアノ)とのデュオ公演終演後、東京国際フォーラムの一角で行われた。
ペトロワはドビュッシーとフランクのソナタで「自分を作品の下に置く」姿勢に徹して作曲家の肉声を伝え、深い感動に導いた。
「演奏の現場での私は音楽のアイデアを聴衆に伝えるメディア(媒体)あるいはサーヴァント(しもべ)です。もちろん私なりの何かを付け加えなければ再現芸術は成立しませんが、最良のバランスを見つけるのは本当に難しい……。ただ、あくまで〈ボス〉は作曲家です」
最新盤はウォルトンの“ヴァイオリン協奏曲”とレスピーギの“ヴァイオリン・ソナタ”を組み合わせた『モメンタム1 - ウォルトン&レスピーギ』。
「先ずは驚くべき名作であるにも関わらず過去20~30年、これといった新譜に恵まれないウォルトンの録音を思い立ちました。私が考えたベストのカップリングはコルンゴルトの協奏曲でした。2人とも存命当時に“時代遅れ”の烙印を押されましたが、今日ではそのレトロな感触こそが味わいです。次に両者を1枚に収めるのではなく、それぞれにテーマ性を持たせたカップリングの2枚に方針を変更、『Momentum』のシリーズ名を与えました。『シリーズ1』のウォルトンはイスキア島に仕事部屋を構え、地中海的要素も多分にありますから、イタリアでは稀な室内楽の傑作であるレスピーギと。『シリーズ2』のコルンゴルトには〈偉大な父親に大きな影響を受けた早熟の才〉との視点から、同時代のリヒャルト・シュトラウスのソナタをあてます」
リサイタルでは楽器の音色の素晴らしさも印象的だった。
「4か月前にストラディヴァリウスの弟子カルロ・ベルゴンツィが製作した〈ヘリオス〉からグヮルネリ・デル・ジェスの〈ロヴェッリ〉に替えたところです。パガニーニのライヴァルと言われたピエトロ・ロヴェッリが亡くなって以降250年も人前で弾かれていなかったのですが、ストラッド並みの黄金の高音に力強さが加わった信じられない楽器です」