ジャズで挑む即興・作曲
進化する〈音楽言語〉

 クラシック音楽界で長く活躍するヴァイオリニストの木嶋真優が新作アルバム『Dear』を発表した。今回の作品は世界のジャズ最前線で引く手あまたのピアニスト、大林武司との共演・共作が大きな話題だ。木嶋本人に共作の意図やアルバムの狙いなどを聞いた。

 「大林さんとは東京の〈ブルーノート東京〉や北海道の〈hitaru札幌芸術劇場〉のライヴでも共演し、その共演が今回のCDにつながりました。私は3年ほど前から〈ブルーノート〉に出演していて、その経験から自分でアドリブや曲を作りたい気持ちを強く持っていました」

木嶋真優 『Dear』 キング(2024)

 アルバムはビル・エヴァンス“ワルツ・フォー・デビィ”、ラヴェル“亡き王女のためのパヴァーヌ”などジャズ、クラシックの名曲を中心に収録した一方、木嶋と大林による自作曲2曲も収録されている。

 「今回のアルバムは何事も大林さんと相談しながらやりました。時間はかかりましたが、初めて1曲も楽譜がないアルバムになりました。大林さんとの共作曲も“Dear”“Mayumal”の2曲あります。“Dear”はワンフレーズ作って編曲という構造ではなく、1音1音を作ってコードに当てはめ、ハーモニーまで全部作りました。“Mayumal”はミニマルミュージックの世界とシンフォニックでメロディアスな音との融合を目指しました」

 クラシック界の人気奏者でありながら、今回はジャズの作曲やアドリブにも本格的に取り組んだ。全く違う舞台に飛び込んだ意図は何か。

 「私が3歳からやってきたクラシックは作曲家の世界観を表現する音楽ですが、ジャズはアドリブなどによって自分の世界観を表現する。私も自分を表現したいと考えました。大林さんと出会い、ジャズの基礎や理論を舞台での実践的な部分を含め、ライブを重ねながら勉強しています。特にジャズ特有のグルーヴ感やビートを共演者の方から毎回学んでいます。自分の音楽をさらに発展させたいとジャズに取り組み、自分の成長が少しずつ実感できているところです。このアルバム全体を通して録音当時はその日の私たちのベストの音を収録しましたが、今なら全く違う演奏をする。音楽は言語のようなもので、学ぶたびに表現がどんどん変わる。録音時よりも〈音楽言語〉は進化しています。これからの私ならクラシックに戻って弾く時にカデンツァも譜面なしに自作で毎回違うものを弾けたら良いなと思っています」

 今回の作品で大林の存在は絶大だった。米国で最先端ジャズのヴォーカリストとして名を馳せるホセ・ジェイムズから日本が誇る歌姫、MISIAとの共演まで幅が広く、木嶋の音楽観にも大きな影響を与えた。

 「私は10代で世界的チェロ奏者のロストロポーヴィチさんと共演したとき、〈同年代の作曲家と音楽を作った方がいい〉と言われました。大林さんは同い年で、同じ目線、同じ時代を生きる方と一緒に音楽を作ることができました。私は今後、ジャンル関係なく音楽を聴く時代を目指したい。この人の音楽だから聴きに来る、また〈ジャズ風〉のような〈風〉でなく、どのジャンルでもいいと言われる音楽になるよう、今後も音楽言語の幅を広げたいです」

 


LIVE INFORMATION
木嶋真優 MAYUフェス Vol.2

2024年8月16日(金)サントリーホール 大ホール
開場/開演:16:30/17:00 ※終演予定19:15

■出演
木嶋真優(ヴァイオリン)/大林武司(ピアノ)、小川晋平(ベース)
MAYU Fes Ensemble:大江馨(ヴァイオリン)/森田昌弘(ヴァイオリン)/佐々木亮(ヴィオラ)/金木博幸(チェロ)/西山真二(コントラバス)/フリスト・ドブリノヴ(フルート)/最上峰行(オーボエ&イングリッシュホルン)

■曲目
第一部
カッチーニ/アヴェ・マリア
ファリャ/スペイン舞曲
ピアソラ/オブリビオン
ヴィヴァルディ/四季より「夏」
久石譲メドレー ほか

第二部
MAYU Jazz with 大林武司&小川晋平

https://miy-com.co.jp/events/mayu-fes_vol-2/