米インディアナ州出身のバンドながら、90年代UKロックを思わせるシューゲイズ~ドリーム・ポップ・サウンドで話題となっているウィッシー。その中心メンバーが、かつてフープスなどで活躍したケヴィン・クラウターだと知ったときは驚いた。フープス在籍中から、ブラジル音楽などに影響を受けたメロウなシンガー・ソングライター作品をリリースしていたケヴィンだが、ふたたびバンド・サウンドに回帰したきっかけは何だったのだろう。
「2020年の大半はツアーやショウでの演奏がなく、のんびり過ごしてたから、ライヴに行く時間がたくさんあったんだ。僕が尊敬する友達やバンドのいくつかはラウドなギター・ミュージックを演奏していて、すごく興奮したし、僕も自分で作りたいと思った。単純にものすごく退屈していたので、ビッグでラウドな、楽しいバンドで演奏したかったんだろうね」。
そんなケヴィンが声を掛けたのが、高校の後輩で、妹の友人でもあるというニーナ・ピッチカイツ。〈アングロフィル(英国狂)〉を自称する彼らは、女性ヴォーカリストのハリエット・ウィーラー率いるブリストルのネオアコ・バンド、サンデイズやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインへの情熱で意気投合すると、地元の仲間を誘ってこのバンドを結成した。実際、バンドの最初のデモを書いたときにも(本人いわく「極めて英国的」な)クリーナーズ・フロム・ヴィーナスにハマっていたというケヴィンだが、昨年6月にカセットでリリースされた最初のEP『Mana』では、意外にもスピリチュアル・ジャズの巨人、ファラオ・サンダースの“Love Is Everywhere”をカヴァーしている。
「単純に、混沌とした反復的でマントラのようなこの曲の歌詞に取り憑かれていて、それは他の曲ではできない方法で僕を興奮させてくれたんだ。そういう自分の好きなところを、どうやったらロック・バンドの形式に翻訳できるかというアイデアで遊びはじめた。僕はドロップ・ナインティーンズ(昨年、30年ぶりの復活アルバムをリリースしたボストンのシューゲイズ・バンド)の“Kick The Tragedy”にも惹かれているんだけど、彼らの音楽にも同じように没頭できるパターンとトランスのような反復の感覚がある。だからドロップ・ナインティーンズのスタイルでファラオの曲をカヴァーすることに決めたんだ」。
その後彼らは、同郷出身のプロデューサーであるベン・ラムズデインからLAに招かれ、シンガー・ソングライターのポール・チェリーやスティーヴ・マリーノと一緒にEP『Paradise』(2023年)をレコーディング。このときのセッションから発展したのが、待望のファースト・アルバムとなる『Triple Seven』だ。ニーナとスティーヴが共作したタイトル曲や、地元インディアナポリスのレストランから名前を取ったという“Just Like Sunday”は、アコースティック・ギターのストロークとトリップ・ホップ風のビート、そしてニーナのエアリーな歌声が耳に残る、浮遊感漂うナンバー。一方のケヴィンはオープニングの“Sick Sweet”を筆頭に、ふたたびバンドで演奏できる喜びに満ちた疾走感溢れるロックソングを提供しているが、なかでもラストの“Spit”は、音楽教師として働くケヴィンが授業中に思いついたというヘヴィーなギター・リフを採用した、卒倒必至のキラー・チューン。すでにライヴの定番になっているというのも頷けるが、そんな曲を書いた当のケヴィンは最近、とある日本のアニメをNetflixで観ることに夢中らしい。
「『ONE PIECE』が大好きなんだ。いつでもニコニコできるし、友達と冒険を続けることに興奮させてくれる。いまのところはフランキーがお気に入りだね」
幸運のナンバー〈777〉を冠したタイトル通り、まさに快心の大当たりとなったウィッシーのファースト・アルバム。トマト型のスロットマシンで一攫千金を夢見るケヴィンと仲間たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。
ウィッシー
フープスやソロで活動していたケヴィン・クラウター(ヴォーカル/ギター)が高校時代からの友人であるニーナ・ピッチカイツ(ヴォーカル/ギター)と米インディアナ州で2021年頃に結成。その後、ディミトリ・モリス(ギター)、ミッチ・コリンズ(ベース)、コナー・ホスト(ドラムス)が加わり、5人組になった。2023年6月のファーストEP『Mana』、10月のセカンドEP『Paradise』を経て、このたびファースト・アルバム『Triple Seven』(Winspear/インパートメント)をリリースしたばかり。