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正直であれ、自分らしくあれ。
新日本フィルハーモニー交響楽団との、10月の共演コンサートもその哲学が横溢したものに!

 現ジャズ界を代表するベーシストであるアヴィシャイ・コーエンの精力的な活動が止まらない。昨年はライヴのため2度来日し、今年も昨年に続きピアノのガイ・モスコヴィッチとドラムのロニ・カスピを擁するトリオで来日した。以下の発言は、その4月の来日公演時に取材した際のもの。まずは、彼が今最大級に信頼する2人の同行ミュージシャンについて聞いてみた。

 「彼らは僕の曲にストーリー、そして得難い経験を与えるてくれるんだ。演奏してすぐに一緒に溶け合うような域に達することができるのが、まさにガイとロニ。彼女らには知識や勇気があり、世代ならではの若々しさもあって、そして潜在能力が非常に高い。そんな2人の技量について、僕は確信をもって賞賛できる」

 この3人で、すでに新作を録音している。

 「このトリオが核となり、他の奏者も何人か加わっている。独特なメロディの曲も演奏していて、どれもエキサイティングでかなり質の高い仕上がりになった。2人と一緒にやると本当に天井知らず、どんどん上に上がっていくことができる。そういう結果を、新作では聞いてもらえると思う」

 2022年には『Shifting Sands』というトリオによるアルバムを出しており、そこにもロニ・カスピは参加。同作については、「やっぱり成長を一番感じる。曲作りを計算ずくでするのではなくて、それまでの経験が僕の中から湧き上がってきたものを皆さんに自然体で届けたいと思っており、それができたと思う」とのこと。

 ところで、コーエンというと印象深いのが2008年作『Sensitive Hours』という作品だ。それは、ジャズ界のダブル・ベーシストとして堂々エスタブリッシュされた時期に発表した一作。自分はイスラエルの文化と伝統を背負った人間であること、さらには単なるベース奏者ではなく歌心も山ほど持つ幅広い音楽家であることを真正面から示さんとする、自らヴォーカルも取ったアルバムだった。

 「実は、あのアルバムについては散々な批評もあったんだ。どうしてジャズ・ミュージシャンがあんな外れたことをやるのかとも言われた。でも、アーティストは勇気が必要だと僕は思っている。自らの内をさらけ出して、自分の世界観を見せる勇気をね。そうしてこそ、初めて人々を癒すこともできるんだと思う。正直であれ、自分らしくあれ。つきるところ、そう感じているよ」

 そんな彼は昨年、NYサルサ界の辣腕コンガ奏者/シンガーであるアブラハム・ロドリゲスJrとの双頭作『Iroko』をリリース。同作はくだけたラテン・マナーと歌心を情感豊かに追求する内容を持っていた。

 「アブラハム・ロドリゲスJrは路上に根ざしてこそのミュージシャンだけど、僕はマンハッタンの通りを超えて出ていく価値のある音楽家だと思ってきた。だから、彼を多くの人に知ってもらうということが僕のミッションだし、もし『Iroko』でそれができたならこんな光栄なことない」

 コーエンは、10月にもロニとガイとともに来日する。それは、新日本フィルハーモニー交響楽団とのホール公演のためだ。

 「新日本フィルハーモニー交響楽団との共演というのは僕の新たな世界を示すものであり、もう一つの世界を具現できるまたとない機会。ベースを弾くこと、歌うこと、作曲することは、僕にとって不可欠なもの。そして、オーケストラと共演する壮大な表現というのも、僕の人生を意義深く紡ぐ手段であり、まさに夢の世界だと言える」

 彼はこれまでもオーケストラを起用した公演を行なってきているが、この秋の特別公演はそうした経験が十全に活かされたものとなる。

 「僕がじっくり積み上げてきたものが、新たに結実するんじゃないかな。僕はクラシック音楽をよく聴いてきたし、勉強もしてきた。ベートーヴェン、モーツァルト、バッハ、ブラームス……。僕はそうした作曲家から大きな影響を受けており、それらを愛好するなかで培ったものがオーケストラとの公演で花開くと思っている」

 


アヴィシャイ・コーエン(AVISHAI COHEN)
1970年4月20日、イスラエルのカブリ生まれ。ベーシスト、シンガー、コンポーザー。1992年ニューヨークに渡る。ニュースクールでブラッド・メルドーなどのアーティストに学び、その後パナマ人ピアニストのダニーロ・ペレス・トリオと演奏・録音することとなる。イスラエル人ピアニスト、ニタイ・ヘルシュコヴィッツをフィーチャーしたデュオ・アルバム『Duende』でドイツのJazz Echo Award for best International album 2013を受賞した。

 


LIVE INFORMATION
アヴィシャイ・コーエン meets 新日本フィルハーモニー交響楽団

2024年10月5日(土)すみだトリフォニーホール 大ホール
出演:アヴィシャイ・コーエン(ベース/ヴォーカル)/ロニ・カスピ(ドラムス)/ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)/中田延亮(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団 ほか
https://www.triphony.com/concert/detail/2024-03-007246.html

AVISHAI COHEN TRIO
2024年10月6日(日)ブルーノート東京
https://www.bluenote.co.jp/jp/

2024年10月7日(月)山形テルサ
https://yamagataterrsa.or.jp/concerts/avishai-cohen-trio/

出演:アヴィシャイ・コーエン(ベース/ヴォーカル)/ロニ・カスピ(ドラムス)/ガイ・モスコヴィッチ(ピアノ)