(左から)根津まなみ、井上惇志

ボーカリストの根津まなみとキーボーディスト/プロデューサーの井上惇志による2人組ユニット、showmoreが約3年ぶりの新作にして4作目のフルアルバム『liquid city』をリリースした。タイトルが示すように、液体のように流動的でさまざまな感情がうごめく都市を舞台したという本作は、サウンド面で大きな転機を迎えた作品であり、これまでもshowmoreが扱ってきた都市というテーマへの本質的な回答を目指した作品となっている。現在開催されているリリースツアーの直前、まだ暑い日の続く東京でshowmoreの2人に話を訊いた。

showmore 『liquid city』 newscope(2024)

 

都市像をアップデートした『liquid city』

――フルアルバムを約3年ぶりにリリースするわけですが、showmoreはそれぞれの活動もある中でライブも行い、尚且つEPをリリースするなど精力的な活動を続けてきました。そんな中で新作『liquid city』の制作はいつから進めていたんですか?

根津まなみ「去年はEPをリリースして、リリースツアーというわけではないんですが5箇所を回って。それが終わったタイミングで、来年もツアーをしたいけどそれはリリースツアーにしたいねと話したんです。

でもすぐに進めたわけではなく。バンドメンバーもいろいろやっているので、スケジュールを押さえるところから始めて、年が明けて4月頃に日程が決まり、それまでに作ろうということで年度が変わってから本格的に制作が始まりました」

井上惇志「ギリギリでした(笑)。7月までに半分もできていなかったんじゃないかな。今回はテーマがすぐに決まりきらなくて……。一貫した作品性が決まらないまま時は流れ、方向性がパキッと定まったのが7月だったという」

――テーマが定まったきっかけはどこにありました?

井上「これまでのアルバムもジャケットの色から決まっていくところがあったんですね。で、今回は〈青っぽい感じだね〉ということと都市や都市生活、都会で生きている人たちの人間模様を描くというのは早い段階で決まっていました。

都市というテーマはファースト(2018年作『overnight』)が強く出ていて、特に“circus”はシティポップの流行や時代のタイミングにうまくハマったところがあったと思います。けど、そのイメージを擦り続けたくなかったので違う方向を模索しました。セカンド(2019年作『too close to know』)もジャケに街が描いてあるんですが、今回はアップデートしたものを作りたくて。

都市って記号的な捉えられ方がされると思うんですよね。例えばエモーショナルな感じとか、チルホップっぽいサウンドとか……。それをそのまま表現してもつまらないものになってしまうので、今都市を描くならどうしたらいいんだろうと考えていたとき、根津さんが『liquid city』という言葉を出して。それがフワッとしたイメージをはっきりさせてくれたと思います。そのイメージを元に収録曲を省いたり、新しく書き上げたりしました。今まではライブでやっている曲を録るケースが多かったんですけど、今作はほとんどの収録曲が新曲です」

根津「普段の作曲はメロディーが先の場合とトラックが先の場合のどちらもあるんですけど、今回は井上くんがトラックメイクを頑張った作品で、1曲目“violet”は先にトラックをあげてくれたんです。でも私が肉付けするのに手こずってしまって。それも7月までギアが入らなかった理由かもしれません。

きっかけになったのは都知事選です。いろんな思想があると思うので特別強く言及するつもりはないのですが、今回の選挙も投票率の低さなど個人的に落ち込むところがあって。それを受けて曲を書き上げることができました。“violet”が出来て、コレ!っていうビジョンが見えて全体が引き締まったかも」

――“violet”は東京を念頭に置いていたわけですね。

根津「そうですね。でも区とか市とかが変わると景色が変わるように、東京といってもいろんな側面があって。高層ビルがドーン!という風景だけでなく、いろんな人が集まって、いろんな仕事の人がいて、いろんな生き方があって、というイメージです」

井上「『overnight』は東京を想定していたり、“rinse in shampoo”は渋谷の曲、“Hold on”も新宿の曲というように、具体的な場所を念頭に置いたものもこれまであったんですけど、今作ではピントが合っていない都市の像を表現したくて。具体的な東京の街ではなくもっと概念的な都市というか……。さっき話した記号と似ているけどちょっと違って、記号的な意味ではなく、だけど概念的なものを提示するのが『liquid city』なんです。都市生活の捉えどころのなさだったり、液体の中にいるような息苦しさだったり、逆に泳ぐような自由さや揺らめきをイメージしています」

根津「不安定なことのネガティブな面だけでなく、美しさも伝えたかったんです」

――showmoreの都会的なイメージを突き詰めていったんですね。