シティー・ポップと現代ジャズを融合させたサウンドで注目を集めるshowmoreが、去る11月8日にMotion Blue YOKOHAMAで初のワンマン・ライヴを開催。当日はたくさんの観客が詰めかけ、まだ結成から1年足らずのバンドとは思えぬブレイクスルーを強く印象付けた。今回は、日本のインディー・シーンに造詣が深い音楽ライターの金子厚武氏によるライヴ・レポートを通じて、この4人組が快進撃を続ける理由に迫った。ちなみに、Mikikiではバンド史上初となるインタヴュー記事を今年5月に掲載しているので、こちらも改めて読んでみてほしい(記事はこちら)。 *Mikiki編集部

 


2016年のトピックとshowmoreの立ち位置

2016年の日本のポップス界を巡るひとつの動きについて、端的に言い表すとするならば、それは〈ブラック・ミュージックを消化したポップス〉から〈ポップス化するブラック・ミュージック〉への転換だったと言えよう。前者の主役はやはりceroであり、現在後者の主役となっているのがSuchmos。もともとジャズと強い接点を持つメンバーを擁しながら、YouTube世代ならではの雑食性でロックからアシッド・ジャズネオ・ソウルまでを吸収し、YONCEという華のあるフロントマンをセンターに据えた6人組は、先日行われたツアーでも東京・恵比寿LIQUIDROOMで2デイズをソールドアウトさせるなど、時代の寵児となりつつある。

Suchmos の2016年のEP『MINT CONDITION』収録曲“MINT”(インタヴューはこちら
 

この背景には、海外における新たなジャズとヒップホップのクロスオーヴァー、それに付随するネオ・ソウルの復権があり、それが2010年代に入ってからの日本で潜在的に盛り上がりつつあった〈シティー・ポップ〉の動きとクロスすることで活性化されたと言えるが、そんななかで女性フロントウーマンを擁するバンドが数多く浮上したのも2016年のトピックだ。Mikikiでは先日ZA FEEDO、TAMTAM、ものんくるという3バンドの女性ヴォーカリストの鼎談を行い、そこではハイエイタス・カイヨーテなどから影響を受けた、現代的なフロントマン像が浮かび上がった。この3バンド以外にも、今年メジャー・デビューを果たしたCICADAや、ジャズ界の凄腕が集まったCRCK/LCKS(ヴォーカルの小田朋美は今月から始まったceroのツアーでサポート・メンバーを務めている)、そして、YONCEと共にOLD JOEで活動した真田徹による新バンド=RAMMELLSなど、枚挙にいとまがない状況なのだ。

CICADAの2016年作『formula』収録曲“ゆれる指先”(インタヴューはこちら
CRCK/LCKSの2016年作『CRCK/LCKS』収録曲“Goodbye Girl”(インタヴューはこちら
 

そして、この動きに連なるバンドのひとつが、本稿の主役であるshowmoreだ。ジャズ畑を中心に活動してきたメンバーが集まって、いまからちょうど1年前の2015年11月に結成されたばかりの4人組は、今年2回行っている自主企画〈newscope〉でTAMTAMとCICADAを招いているように、まさに時代の先頭集団に位置するバンドである。今年6月に3曲入りのEP『moonflower』を限定リリースしただけにもかかわらず、Motion Blue YOKOHAMAでのワンマン・ライヴが開催されることになったのも、バンドに対する期待の表れだと言えよう。ファーストとセカンドの両セットを合わせて、持ち曲の全部だと言う18曲(カヴァー含む)を披露したこの日のステージは、その期待をさらに膨らませるに十分なものだった。

 

ポップスとして機能する、ジャズ経由の演奏スキル

ファースト・セットでは、普段キーボードとヴォコーダーを使う井上惇志がグランド・ピアノとフェンダー・ローズという特別なスタイルで臨み、現代ジャズとの強い接点を感じさせる“flashback”からライヴがスタート。“rinse in shampoo”ではローズにMXRのフェイザーを噛ませたエフェクティヴなアプローチを見せたりもしたが、まず印象的だったのは演奏技術の高さ。シティー・ポップの盛り上がりのなかで必ず付いて回ったのが、〈ライヴがいいバンドは少ない〉という言説で、山下達郎のバンドを引き合いに出すのは極端にしても、やはりジャズやファンクを基調にグルーヴ感のある演奏を成り立たせるのは、ロック出身のバンドにとって決して簡単なことではない。その点、showmoreの場合はベースの久松諒が甲陽音楽学院でベスト・プレイヤー賞を受賞していたり、ドラムの秋元修が洗足学園音楽大学のジャズ・コースを首席で卒業していたりと、その経歴からして実力は折り紙付きなのだ。

そのうえで、形式的なジャズの枠組みに囚われていないのが彼らの良さで、久松がステージ前方まで出て行ってソロを披露する場面があったりと、ロック・バンド的なアプローチも見せる。そして、何より重要なのが、フロントマンの根津まなみの存在だ。憂いを感じさせる大人びたヴォーカルはMotion Blue YOKOHAMAのステージに似合っていたが、もともとは茜空という名義で弾き語りメインの活動をしていて、語尾を裏返らせる独自の歌唱で強い存在感を放つ彼女が中心にいるからこそ、showmoreはあくまでポップスとして機能するのだ。そんな茜空のカヴァー“タバコノケムリ”で見せた歌心は、とても象徴的だった。

休憩を挿んでのセカンド・セットでは根津が背中のざっくり開いたセクシーなドレス姿で登場。井上が本来のキーボードとヴォコーダーのスタイルに戻ると、さっそくヴォコーダーを使った“I don’t love you”でスタートし、ドラムンベース調の“highway”と続けていく。この日はまだ未発表の楽曲が数多く披露されたが、プログレッシヴな曲からヒップホップ調、メロウなバラードまで多彩なナンバーが並び、『moonflower』の収録曲以上の手応えが感じられたことは強調しておこう。バンドのキャラクターやヴォーカルの声質はまったく異なるものの、知識と技術に裏打ちされた楽曲とポップさのバランスという意味では、将来的にパスピエのような存在になる可能性もあるのではないかと感じた。

 

より大きなフィールドをめざして、4人は大海原へ

そんなロック・バンド的な立ち位置を強く印象付けたのが、ZAZEN BOYS“KIMOCHI”のカヴァーだ。そもそもZAZEN BOYSは、ロック・バンドによるヒップホップ/ジャズの解釈にいち早く取り組んだバンドであり、記念すべき初ワンマンにおけるこの選曲は、showmoreがこれからロック・シーンにも出て行くんだという気概の表れだったように思う。さらにもう少し言ってみれば、根津と井上のヴォコーダーによるデュエット形式の“KIMOCHI”は、向井秀徳と椎名林檎がTV番組で共演した際に披露し、YouTubeで80万回以上再生されている同曲のカヴァーに近いもので、〈ポップスへの入口が椎名林檎だった〉という井上個人の思い入れが強い選曲だったのかもしれない。

ダンサブルな“floor”で本編を締め括ると、アンコールでは来年に初のフル・アルバムを発表することを報告。この特別な1日に感謝を捧げるかのように、最後は“have a good day”で記念すべき初ワンマンが終了した。〈外洋への船出〉という思いを込めて海事専門用語の〈D.L.O.S.P〉をタイトルに冠したこの日のライヴをもって、showmoreはMotion Blue YOKOHAMAがあるみなとみらいからより開かれた場所をめざし、大海原へと漕ぎ出したのだ。