え? こんな曲も! 驚きの4手ピアノの世界――バッハから寅さんへ
レーガー編曲のバッハ“ブランデンブルク協奏曲”などピアノ4手連弾用の難曲を次々と録音して注目を集めている〈ピアノ・デュオ・タカハシ/レーマン〉の最新録音は、え、こんな編曲もあったのか、という発見の多い、しかも楽しいアルバムだ。〈バッハから寅さんへ〉というサブタイトルが示しているように、アンコールで演奏されるような珍しい小品を続けて聴くうちに、ふたりの暖かみのある演奏に引き込まれる。
「2007年ぐらいから一緒に演奏をして来たので、お互いの音楽性もよく理解しているし、息づかいも感じるし、響きのイメージも溶け合って行く部分がふたりの演奏にあると思います。連弾の魅力はひとつの作品をピアニストふたりが共有する点にあると同時に、それぞれの個性による演奏を尊重しつつ、それを一緒に拡大して行くような可能性も多いです。そこが魅力のひとつでしょう」
とレーマン。ピアノが発展し始めた時代から1台のピアノを4手(ふたり)で弾く試みは続けられて来て、今回のアルバムが紹介してくれているようにバッハ、ヘンデル、モーツァルトからロマン派時代の作品、そして日本の有名な童謡や歌謡曲まで、知られていない編曲も数多い。
「今回のアルバムでは、たとえば交響曲のみが有名なハンス・ロットの“フーガ”や、生きている間はよく弾かれていたラフの“汽車の旅”。さらにはほとんど知られてないと思われるローソーンの“魚籠”を演奏しました。日本の作品も驚きがあり、本当に4手連弾曲は豊富な世界です」(レーマン)
このロット作品も世界初録音となるが、日本の作品でも松島彜(女子学習院教授、“おうま”の作曲家として有名)の“サクラバリエーション”、たかしまあきひこ編曲の大中恩・作曲“いぬのおまわりさん”、そして山本直純自身の作・編曲による“寅さん”など、よく耳にしても、4手編曲版はまったく知られていない作品も並び、個人的にはちょっとノスタルジアに浸って聴いた。
「4手連弾の編曲はとても長い歴史を持っていて、ピアノという楽器がどんな風に演奏され、愛されて来たかという歴史も教えてくれるものですね。実際の演奏も、手が重なる内声部をふたりでどう弾き分けるか、音色のパレットの広げ方など、たくさんの課題もあるジャンルです」(タカハシ)
世界初録音を含む今回のアルバムを聴き、未知の鍵盤楽器世界も覗くことが出来た。ピアノの世界はまだまだ奥深い。