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UK、ウェールズ出身のプロデューサー/シンガー、ケリー・リー・オーウェンスが新アルバム『Dreamstate』をリリースした。The 1975のジョージ・ダニエルが立ち上げた新レーベル、〈dh2〉からの記念すべき第1弾リリースである。アルバムにはジョージ・ダニエル、ケミカル・ブラザーズのトム・ローランド、バイセップが共同プロデューサー兼ソングライターとして参加。内容的にはポップミュージックとエレクトロニックミュージック、ダンスミュージックの境界線を曖昧にし、高い評価を得た2020年のアルバム『Inner Song』をさらに深掘りした作品と呼べるだろう。

今年5月に行われた〈BONOBO PRESENTS OUTLIER TOKYO〉でのエネルギッシュなDJの記憶も新しいケリー・リー・オーウェンスに最新作『Dreamstate』を語ってもらった。

KELLY LEE OWENS 『Dreamstate』 dh2/ユニバーサル(2024)

 

団結すること、共に夢を見ることが重要

――最新作『Dreamstate』は、ジョージ・ダニエルがダーティ・ヒットと共に立ち上げたエレクトロミュージックにフォーカスした新レーベル、dh2からの第1弾リリースとなります。まずはどのような経緯でdh2と契約することになったのか教えていただけますか?

「良い質問! 考えてみればジョージとはかなり前から連絡を取っていて。はじめはThe 1975のマシュー(・ヒーリー)を通じて知り合ったんだけど、おそらくジョージは私の音楽を聴いてくれていて、私といっしょに働きたいと思ってくれていたんじゃないかな。ただ、そのときはちょうどパンデミックの時期で、実際に会って遊んだり、音楽をいっしょに作ったりするのは難しくて。

で、連絡を取り合っている間に、私が次のアルバムで新たなフェーズへ移るための準備が整ってきたんです。それにあわせて新しいチームが必要だと感じていた時期でもありました。そんなときに彼らはdh2を作ることを決めたんです。だから本当にすごくタイミングが良くて。

そういえばジョージと私はLAでランチをしたことがあるんです。去年、私はデペッシュ・モードとツアーをしたり、曲を書いたり、かなり長い期間LAにいたからね。そのときに彼がdh2の考えを話してくれて。アーティストのキャリアにおいて一度大きなヒット曲を作ることよりも最終的に長く活動すること。アーティスト自身が重要であること。リスペクトできるような長い旅、それをサポートしたいという彼らの考えに共感したんです。本当に家族のような、素晴らしい関係を築けています。

もちろん関係性だけでなく、スキル的な理由もあります。ジョージのDJとしての、プロデューサーとしての才能は素晴らしいから」

――『Dreamstate』はどのような経緯で制作に着手し、どのような作品を目指してアルバムとして作り上げていったのでしょう?

「新しい作品を作るとき、いつもそれを作る準備ができたら感覚的にわかるんです。だから作ろうと思っても実際にそれを始めるまで1年以上時間が掛かることもある。

今回もそうで、2022年頃から例えば〈こんなカラーにしたい、こんな風な作品にしたい〉と考え始めていました。その一つが、できるだけ多くの人々といっしょに夢を見て、それを叶えることで癒される、ということで。そのためにはまず自分自身の進化やある種の癒しから始めなければならなかった。つまり自分自身の感情とコネクトする必要があったんです。自分自身の脆弱さに対して正直に向き合うために、内省的になることがとても多かった。音の癒しの力を活用するだけでなく、それを伝えるためにも。例えば“Trust & Desire”には最も生々しく自分の脆い部分が反映されています」

――個人としての夢と集団的な夢は繋がっているということですね。それでタイトルに『Dreamstate』という言葉を選んだと。

「その通り。個人としての夢と集団の持つ夢は疑う余地のないほど本質的に繋がっていると思います。特に(パンデミック以降の)ここ数年で私たちはそれを理解できたんじゃないかな。私たち人間は本当に多くの面で共通していて、だからこそ団結すること、そして共に夢を見ることが重要なんだって。

そのために大切なのは、例えば(スマホの)画面から離れること。画面の中で売られているものではなくて、地に足をつけて、自分の夢が何か理解するためにね。画面から離れることって、実はこの時代における反逆行為の一つなんじゃないかな」

――あなたをそういった方向へと向かう後押しとなった具体的な出来事はありましたか?

「これまでに私が経験してきたことすべてかもしれません。考えてみると、こういった傾向は『Inner Song』の頃から始まっていました。パンデミックの反動でいろんな人と繋がりたい、コラボレーションしたいという気持ちもありましたし、内省した結果として自分自身に対してオープンになれたことも今作の様々なコラボに繋がっていると思います。そういったプロセスの一つの集大成が『Dreamstate』という作品なんです」