天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。日本国内は新型コロナウイルスの話題一色です。政府の基本方針が発表されたこともあり、ライブやイベントがどんどん中止や延期になっています」
田中亮太「そうですね。チケットを取っていた今週末のJリーグの試合も延期になっちゃいました……。あぁ、ブラジル人頼みのクソサッカーが観たかった(泣)。音楽業界では、グリーン・デイの日本を含むアジア・ツアーの延期、新作『7』を発表したBTSの韓国ツアーの中止などが話題です」
天野「来週のフォールズの来日公演は、いまのところ開催されるようですが……。音楽はもとより、エンターテインメント業界全体が痛手を負っていて、スタッフや企業、アーティストたちは厳しい状況に置かれていますね。耐え忍ぶしかない……。読者のみなさんも、本当に気をつけてくださいね!」
*2020年3月1日追記
フォールズの来日公演は延期になりました。詳細とアーティストからのコメントはこちら https://www.smash-jpn.com/live/?id=3255
田中「こういうときこそ暗い気持ちを忘れさせてくれる娯楽や遊び場が必要だと思うのですが、仕方ありませんか……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Phoebe Bridgers “Garden Song”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はフィービー・ブリジャーズの新曲“Garden Song”! フィービーはMikiki一押しのシンガー・ソングライターで、2019年にはインタビュー記事を掲載しています。いま彼女の名前をGoogleで検索すると、亮太さんが撮影したこの記事の写真がトップに出てくるという(笑)」
田中「本当だ(笑)。それはさておき、フィービーは米LAで活動する音楽家です。『Stranger In The Alps』(2017年)とシングル“Motion Sickness”のヒットで、一躍インディーの世界で注目されるようになりました。最近はジュリアン・ベイカー、ルーシー・デイカスとのボーイジーニアス(boygenius)、さらにコナー・オバーストとのベター・オブリヴィオン・コミュニティー・センター(Better Oblivion Community Center)と、課外活動が目立ちます」
天野「純粋なソロの新曲としては約3年ぶりでしょうか。期待を裏切らない、素晴らしい曲です! いつものように彼女の歌とギターが中心の曲ですが、よく耳を澄ましてみてください。ギターの音が妙にくぐもっていたり、小さな音のノイズが散りばめられていたり、歌に深いエコーがかかったりと、繊細な音響とサウンド・プロダクションが聴きどころだと思います。お兄さんのジャクソンが撮ったビデオがまた良くって、ホーム・ビデオ的な手作り感とサイケデリックな感じが最高です」
田中「歌詞は彼女の曲にたびたび出てくるモティーフ〈成長〉についてのものだと解釈できそう。〈17歳のとき、私はフェンスを飛び越えて/自分が欲しているものを知った〉。とても美しい歌だと思います。『Stranger In The Alps』に続く新作に期待したいですね」
2. 100 gecs feat. Charli XCX, Rico Nasty & Kero Kero Bonito “ringtone (remix)”
田中「続いて、100ゲックスの新曲が2位。最近やたら名前を見る2人組ですが、いったいどんな人たちなんですか?」
天野「米ミズーリ州セントルイス出身のデュオで、現在ディラン・ブレイディ(Dylan Brady)はLAに、ローラ・レス(Laura Les)はシカゴに住んでいます。フューチャー・ベースやトラップを基調としたビートに、オートチューンなどで変声されたラップを乗せている……と書くと、〈よくある感じじゃん〉って思われちゃいそうですけど、彼らはそこにノイズやインダストリアル、ハードコア、トランスなどを混ぜて、超クレイジーなサウンドにしているんです。去年リリースしたアルバム『1000 gecs』は、そのぶっとんだサウンド・プロダクションが日本のリスナーの間でも話題になっていましたね」
田中「とことんエクストリームに進んだ結果、なぜかポップに突き抜けたかのようなサウンド。はっきり言って、自分も大好物です! この曲は、もともと『1000 gecs』に収録されていた“ringtone”をリミックスしたもの。チャーリーXCX、リコ・ナスティ、ケロ・ケロ・ボニトとフィーチャーされている面々が、かなり豪華……」
天野「このラインナップにも彼らの特異な立ち位置が表れていますよね。ブレイディは、チャーリーの『Charli』(2019年)にも参加しているし、プロデューサーとしても活躍しています。このリミックスは、客演の3人がかわるがわるマイクを回してくのが楽しい一曲。彼女たちの写真を使った、あまりにもローテクすぎるミュージック・ビデオも必見です!」
3. Lady Gaga “Stupid Love”
天野「3位はレディー・ガガの新曲“Stupid Love”。ガガ様といえば、主演映画『アリー/スター誕生』(2018年)の大成功が記憶に新しいですね。ブラッドリー・クーパーと歌った“Shallow”も大ヒット。僕はあのくどい曲、〈アメリカの演歌〉に聴こえてしかたないんです(笑)」
田中「まあ、わからなくもないですが……(笑)。そんなレディー・ガガの3年ぶりとなる新曲は〈アリー〉のカントリー/フォーク的な世界から打って変わって、ディスコ/ハウス調のダンス・ナンバー。ジャスティン・ビーバーとの“Friends”で知られるブラッドポップ(BloodPop®)とフューチャー・ハウスの提唱者であるチャミ(Tchami)、さらにマックス・マーティン(Max Martin)が作曲に関わっています」
天野「メロディーの感じや歌い回しのくどさは、いつものガガ様って感じがしますが、ここまでディスコっぽい曲って、最近のレディー・ガガでは珍しいような気がしました。いままでのギラギラしたエレクトロ・ポップではなく、力強いベースとビートがサウンドの中心になっているので、ロビン(Robyn)やジョージア(Georgia)みたいな曲でいいなと。『マッドマックス』とかのレトロなSFをパロったビデオは笑えます。なんと、全編iPhone 11 Proで撮影したんだとか。この“Stupid Love”は、リリース日未定の6作目のアルバムからのシングルだそうです!」
4. TeaMarr feat. D Smoke “Kinda Love (Remix)”
天野「4位は注目のR&B歌手、ティーマーの曲です。“Kinda Love”(2019年)のリミックス・ヴァージョンで、こちらも注目のラッパーであるD・スモークがフィーチャーされています」
田中「ティーマーはボストン生まれ、LA拠点のハイチ系アメリカ人シンガー。現在26歳で、今後SZAのようにR&Bシーンを引っ張っていく存在になるかもしれませんね。この曲でも伸びやかで力強い歌を聴かせています。リアーナの歌声をちょっとかん高くしたような感じで、可憐さがありますね。ダンスホールっぽい節回しも、なんとなくリアーナっぽい」
天野「一方のD・スモークは、以前から〈PSN〉で紹介したいと思っていたラッパーです。実は彼、シンガーのサー(SiR)のお兄さんで、現在33歳。音楽キャリアは10年以上あり、普段は高校教員を生業としているそうなのですが、Netflixのオーディション番組『リズム+フロー』で優勝したことで一躍時の人に。2月7日にリリースしたばかりのデビュー・アルバム『Black Habits』もかなり話題ですね」
田中「『リズム+フロー』は久保憲司さんの連載でも取り上げられていましたね。ティーマーとD・スモークは2020年の顔になるかもしれません。注目の2人のコラボレーション、ぜひチェックしてください!」
5. Kelly Lee Owens “Melt!”
田中「最後はケリー・リー・オーウェンスの“Melt!”。彼女はもともとインディー・ロック・バンド、ヒストリー・オブ・アップル・パイ(The History Of Apple Pie)のメンバーだったんですが、いまやエレクトロニック・ミュージック畑の作家として大活躍していますね。オリジナルの楽曲はもちろん、ダニエル・エイヴリー(Daniel Avery)やジョン・ホプキンス(Jon Hopkins)とのコラボレーターとしても素晴らしい作品を残しています」
天野「去年の12月に発表されたホプキンスとの“Luminous Spaces”は、亮太さんのお気に入りの一曲ですよね。彼女の透明感に溢れた歌声は、エモーショナルなテクノとすごく相性がいい。とはいえこの“Melt!”は、これまでの彼女の作品から、さらにダンス・ミュージックと舵を切った印象です。2017年のファースト・アルバム『Kelly Lee Owens』は、もっとオブスキュアでドリーム・ポップ的な色合いが強かったので」
田中「硬めのビートでグイグイと進んでいく感じがかっこいいですね。ストイックなミニマル・テクノながら、アイス・スケートや氷河の氷が溶ける音をサンプリングしたサウンドが、ヒプノティックな効果を及ぼしています。これは、フロアで聴きたい! この曲を収録したセカンド・アルバム『Inner Song』は5月1日(金)にリリース予定。楽しみです」