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Photo by Marco Borggreve

モーツァルトのピアノ作品をオペラのようにうたわせたい

 ユンディが新境地として録音に着手したのはモーツァルトの作品。2023年6月ザルツブルクのモーツァルテウムでレコーディングしたもので、まず大好きだという4曲が登場した。

 「ここ数年モーツァルトを集中的に演奏しています。モーツァルトは音符の数が少なくシンプルで簡単そうに見えますが、とても奥深く複雑な感情が渦巻き、色彩感豊かで表情の変化が著しい。それを理解し、自分の音楽として奏でるのは時間を要します」

YUNDI LI 『モーツァルト:ソナタ・プロジェクト - ザルツブルク』 Warner Classics/Parlophone/ワーナー(2024)

 シリーズ第1弾はピアノ・ソナタ第11番“トルコ行進曲付き”、第8番、幻想曲ハ短調、ピアノ・ソナタ第14番という構成だ。

 「“トルコ行進曲”はモーツァルトのソナタのなかでもっとも知名度が高く、舞踊の要素が含まれています。にぎやかで情景が浮かぶような作品ですね。第8番は、母親を亡くしたモーツァルトの深い悲しみが表現され、沈み込むような曲想で、その描写はとても難しい。私は第2楽章が大好きで、ゆっくりと歌唱性に満ちているところに魅了されます。神がかった美しさとでもいうべきでしょうか。このソナタは内面的で深刻。いかにしたらモーツァルトの痛みが表現できるか、ここに心を砕きます。美しく劇的ですし……」

 ユンディはモーツァルトのオペラをこよなく愛し、特に“フィガロの結婚”を好む。

 「ピアノ作品もオペラのようにうたわせるべきだと思うのです。どの曲も〈音〉が大切。モーツァルトの音は独特で、その音をいかに探求し実現できるか、すべてのピアニストがそれを探し求めているのだと思います。私も演奏するごとに異なる音色、変化、色彩、キャラクターを追求し、一度たりとも同じ演奏はしません」

 さらに幻想曲に関しては。

 「この曲が一番好きといってもいいくらい。オペラ的で内容が濃く、音楽性豊かで聴き手をうっとりさせる。モーツァルトの作風は古典的ですが、これはロマン派に近い感じ。第14番は全体のバランスが見事。ベートーヴェンを思わせ、“幻想曲”と一緒に演奏すると大きなオペラを彷彿とさせ、想像力をかきたてます。8歳のときにモーツァルトを弾き始めましたが、いまようやく真意が理解できるようになりました」

 実は、ユンディは日本のラーメンが大好物。地方の味の違いや麺、スープの違いにも詳しい。

 「日本のラーメンは多種多様。ラーメンというひとことではくくれない奥深さがあり、まるでモーツァルトの作品のよう。もっと食べて研究したい(笑)」

 


LIVE INFORMATION
ユンディ・プレイズ・モーツァルト・ソナタ・プロジェクト1

2025年1月8日(水)横浜みなとみらいホール
開場/開演:17:30/18:30

2025年1月9日(木)武蔵野市民文化会館
開場/開演:18:00/19:00

2025年1月10日(金)鎌倉芸術館
開場/開演:17:30/18:30

https://www.tate.jp/