50年の時空を歪めつつ、現在に共鳴する未来からの音楽

 小杉武久(1938-2018)は、1960年に結成した〈グループ音楽〉において、日本で最初に電化製品などの非楽器を含んだ集団即興による演奏を試みた。そして、1969年には〈タージ・マハル旅行団〉として、あらたな集団即興の実践を開始した。それは、同時代の実験音楽、電子音楽、即興音楽、サイケデリック、サブカルチャーといったあらゆる要素が渾然一体となったものであった(見た目は当時のどのバンドよりもインパクトがある)。

タージ・マハル旅行団 『JULY15, 1972』 SWAX(2024)

 1971年には〈インドのタージ・マハル寺院に24時間滞在して帰って来る〉という、ある意味、破天荒で、まさに〈地球音楽〉を標榜するトラヴェラーズを名乗るに相応しいツアーを敢行した(映画「旅について」として記録されている)。ストックホルムでの展覧会で会期中3ヶ月間連日演奏を続け、その終了後ヨーロッパをツアーし、それで手に入れた中古のワゴン車で、中近東からインドのタージ・マハル寺院に到着した。このアルバムは、そのツアーから72年に帰国し、さらにイギリスの実験音楽祭ICES ’72に参加するための資金カンパを兼ねて、草月ホールで開催されたコンサートの録音である。しかし、グループの成り立ちなどに当時の時代背景を感じながらも、その音楽のなんと超越的で自由なことか。オリジナルの4チャンネルミックスを聞いてみたいものだ。

小杉武久 『Catch Wave』 SWAX(2024)

 1975年に発表された『キャッチ・ウェイブ』は、その後も小杉のライヴ・パフォーマンスとして演奏され続ける代表作となったものである。その帯に記された〈ヴァイオリン、声、電子メディア、光、風によるインプロヴィゼーション〉とは、インターメディアと呼ばれた、あらゆる個別のジャンルの中間領域を模索する表現方法である。それは、〈微風や光や見えない電磁波やゆっくりした不可聴の電子のうねり。知覚の想定を超えた無音の領域〉(小杉の解説より)をキャッチすることであり、小杉がジョン・ケージの“4’33””以後の問題系を引き継ぎ、乗り越えた音楽家であることを意識させる。それは、50年の時空を歪めつつ、現在に共鳴する未来からの音楽のようだ。