Photo_(C)Vanessa Filho

 

 マイラ・アンドラーデが、その歌声と一緒に運んでくる景色は見晴らしが良い。「本能と直感を大切にしたい」とも、「嫌いなのは、退屈すること」とも語るアフリカはカーボ・ヴェルデ出身の30才だ。こういう人にだったら、音楽の神様だって明日を託してみたくなるのではないだろうか。殊に、新作『緑の風、愛の言葉(LovelyDifficult)』では、アフリカにポルトガルにフランスにブラジルにと、多彩な音楽や文化が同居し、彼女の若々しい息遣いを爽やかに弾ませている。

 「私の音楽のいちばんの核となってるもの、つまりアイデンティティとして受け継いでいるものは、ルーツであるカーボ・ヴェルデの音楽です。だけど、幼い頃からいろんな国を旅行していたので、他国の文化に対してもオープンです」

MAYRA ANDRADE 緑の風、愛の言葉 リスペクトレコード(2014)

 殊に、今回は自由に窓を開け、風通しまで最高だ。

 「これまでのアルバムと断絶があるわけではないのですが、急カーブを切った感じでしょうか。人生にはそれを乗り越えていくステップというのがあると思うのですが今回はまさしくそれで、一つのサイクルが終わって、このアルバムと共に新しいサイクルが始まったという気がします。この12年パリに住んでいるんですが、一人の現代人、コスモポリタンな人間としてのパリの日常生活を忠実に反映していると思います」

 多様の人種が参加し、複数の言語で歌われている。まるでそれが、彼女のメッセージでもあるかのように。と同時に、ワールドミュージックが、新しい時代にまた一歩踏み出しているのを実感させてもくれる。

 「これまでのワールドミュージックの先輩たちは、世間が期待しているもの、例えば異国情緒だとかを裏切らないようにするところがありました。でも、私は違います。私の人生をそのまま反映したものであって、誰かの期待に答えようと音楽を作ったりはしません」

 先輩たちを蔑ろにしているわけではない。殊に、故郷の大先輩セザリア・エヴォラは大きな存在だったらしい。12才の時に初めて会い、アドバイスを最初にくれたのもセザリアだった。「彼女のおかけで、カーボ・ヴェルデの音楽が意味を持つものになりました。私たちの世代が、カーボ・ヴェルデについて説明する必要もなくなった。敬慕と感謝の気持ちでいっぱいです」

 最後にアルバムの原タイトル『Lovely Difficult』について尋ねると、笑いながらこう返ってきた。

 「以前つき合っていた男性がつけてくれた、私のニックネームです。ある朝不機嫌だったので、彼が、君のことを愛してはいるんだけど、窓からほうりたいくらいだよ、と。今回は、私のプライベートな面もあるので、このタイトルでもいいかなと思ってつけました」