苦労人たちである。2016年のバンド始動から、メンバー・チェンジは数知れず。しかし類稀なソングライターであるフロントマンの湯口翔平を中心に団結、ファンクでダンスなハッピー・サウンドと、恋と人生のユーモアやペーソス溢れる歌詞が共感を呼び、ついに世に出るベスト盤的な一枚。それがGET BILL MONKEYSの『Monkeys Collection』だ。
「泣いた日も怒った日も、誰にも相手されない時もあって、いろんな感情が詰まった一枚。うまくいってない男の話ばかりですけど、少しでも共感していただけたら嬉しいです」(湯口)。
バンドのキャッチコピーは、最年長ドラマーの貝吹‘KONG’裕一郎が考案したという〈97%のブサイクでも3%でハートを射抜ける〉。そこまで言わんでも、という率直すぎる表現の中に、3%に賭けるバンドのロマンがある。
「いくらカッコ悪いところを見せていても、最後の一瞬がカッコ良ければ全部帳消し。一生懸命に演奏する姿はブサイクかもしれないけど、〈3%のカッコ良さがあれば人の心は動く〉という信念を持ってやってます」(KONG)。
楽曲はある意味オーソドックス。湯口の頭の中ではサザンやミスチル、BUMP OF CHICKENなどのJ-Popのルーツと、ディスコやダンクラ、マイケル・ジャクソンを経てマルーン5やブルーノ・マーズに至るソウル/ファンクの要素がミックスされ、老若男女を踊らせるキャッチーな曲がじゃんじゃん生まれるらしい。お薦めはアルバムの1、2曲目を飾る“NORI☆NORI Going on”と“NO GUTSMAN”。どちらもいかしたホーンズ入り、後者にはJABBERLOOPのメンバーも参加して、沈んだ心もリフトアップするご機嫌なグルーヴだ。
「僕は曲の中に好きな音楽の引用を入れるのが好きで、“NORI☆NORI Going on”はジェフ・ベックだなとか、“日々は続く”のソロはTAK MATSUMOTOとデヴィッド・ギルモアだなとか(笑)。曲を聴くと、録った時期の記憶が蘇るので、そういう意味でも〈Collection〉なのかな?と思います」(カワコウ)。
「僕らはずっとブレてない。最新アルバムだけど最初の曲も入れられるぞ!という気持ちで、このバンドで最初に作った“アッパーレ!”も、いまの5人で録音し直しました」(KONG)。
「もっといろんなタイプの曲があるんですけど、今回は多くの人に触れてもらえる聴きやすい曲が集まっているので、実家とか知り合いにも渡しやすいアルバムになりました(笑)」(ノロナオキ)。
湯口のヴォーカルは、時にフェイクをかましながらも、歌詞をはっきり聴かせるJ-Popの親しみやすさを標準装備。〈うまくいってない男の話ばかり〉の歌詞も秀逸で、恋に気弱く情けないすべての人に捧げる応援歌“NO GUTSMAN”や“アッパーレ!”、振り向いてくれない女性に貢ぎ続ける男の物語“Money for Honey”など、陽性なグルーヴの裏に忍ばせた、湯口の人間性丸出しのメッセージにビビッとくれば、あなたはもうモンキーズの一員だ。
「湯口さんは曲を作って歌って、みんなに指示して、やってることは〈俺についてこい〉タイプなんですけど、表現の仕方が限りなく消極的で(笑)。歌詞の内容もそうだし、ライヴで〈盛り上がってるか!〉も言わないし、メンバー紹介もしない。その消極性に共感して集まったメンバーばかりなんです」(ノロ)。
「人生全然いいことないよなと思っても、〈同じ気持ちの人たちがこんな楽しそうなことやってるなら、まだまだ俺も楽しいことあるんじゃねえの?〉みたいに思える。そんな楽曲がアルバムにはたくさん入ってます」(KONG)。
今後の夢は?と問えば、〈続けること〉と即答。苦労人たちだからこそわかる人生の重みと、音楽の楽しさを乗せて。歌い続けろ、GET BILL MONKEYS。
「とにかくこの5人で音を届けたい。武道館やドームに立ちたいとかいう気持ちはもちろんあるけど、この5人じゃないと駄目なんです。それをこの先もずっと続けていくのが僕の夢ですね」(湯口)。
GET BILL MONKEYS
湯口翔平(ヴォーカル)、カワコウ(ギター)、カワブチ コウタ(ベース)、貝吹‘KONG’裕一郎(ドラムス)、ノロ ナオキ(キーボード)の5名から成るバンド。2016年に結成され、2018年にEP『BROTHERS』をリリース。2019年より現体制となり、初の全国流通盤『Cinematic ROMANCE』、2021年のミニ・アルバム『Wonderful LAND』を発表して以降は連続で配信シングルを重ねる。このたび初のフル・アルバムとなる『Monkeys Collection』(SELECTIVE)をリリースしたばかり。