全曲の作詞作曲を手掛ける高田真路が高校の軽音楽部を通じて知り合ったヨシダアヤナ、フルギヤ、吉島伊吹に声を掛け、2021年に結成したchef’s。さまざまなジャンルを混ぜ合わせ、ポップスの可能性を広げる〈おいしいおんがく〉をコンセプトに活動を続けている。

 「いい音楽を聴いたとき、目の前に美味しいものがあって、涎が出るのと同じ感覚になるんです。そこから〈おいしいおんがく〉をコンセプトにしました。実際、僕は料理も大好きで、カレーを作りながら頭でコードを練ったり、楽曲の構成を考えたりします」(真路)。

 真路はthe band apartとヴルフペック、アヤナは山下達郎、フルギヤはマテウス・アサト、伊吹はFUYUなど、それぞれのルーツを持ちながら、広く届く音楽を志向。2022年に発表して、TikTokで話題を呼んだ“Hamlet”は彼らの名刺代わりの一曲となった。

 「“Hamlet”は〈おいしいおんがく〉を1曲で全部表してる曲だなと思っていて。最初ジャズっぽいのかなと思ったら、サビで急にロックな感じになって、そこからファンクな感じに落ちて。でもちゃんと歌もので、最後にギター・ソロで締める。自分たちのコンセプトを体現する“Hamlet”をいろんな人が聴いてくれたのは嬉しかったです」(真路)。

 今回の新作EP『thirsty flair』は、マカロニえんぴつらが所属するmurffin discsからの初リリース。先行配信された“プルミエール”や“ourora”はピアノや管弦楽器が用いられ、新たな方向性を強く印象付ける一方、以前リリースした“Ci(n)der era”を再録したり、オルタナ感のあるミクスチャー・ロック“酒落徒”があったりと、振り幅の広さは過去最高だ。

chef’s 『thirsty flair』 murffin Lab./murffin discs(2025)

 「これまでの作品はタイトルでフルコースを作っていて、最初のEP『NOBODY CALLS ME CHICKEN!』が肉料理、次の作品が魚料理の『selfish theater』、そしてデザート、間食、野菜と来て、今回は〈ドリンク盤〉。リリースを重ねていくなかで、どこかで鍵盤をフィーチャーしたいとは思ってたんです。ピアノは2歳からやっていて、東京事変のヒイズミマサユ機さんが憧れのピアニスト。あと中学生のときに吹奏楽部で、久石譲さんの譜面をずっと写した経験もあって。オーケストレーションはそこで学びました」(真路)。

 「今作だけでもフルコースになってるなっていうぐらい『thirsty flair』の満足度は高いです。真路が作る曲はコンセプトがしっかりあるし、今回も〈ドリンク盤〉だから“Ci(n)der era”がサイダー、“プルミエール”はお酒のエール、“酒落徒”は酒と掛け言葉がある。一曲一曲をより丁寧に作り込みました」(アヤナ)。

 「ギターに関しては以前に出した“ヒッチコック”が自分のなかでマスターピースだったんですけど、今回はそれを超える気持ちでやって、実際に超えられましたね。特に“酒落徒”はギター中心で、すごくおもしろいものができました。真路は曲を作るときに理論的なんですけど、僕は感覚派なので、そこがいい感じにマッチしましたね」(フルギヤ)。

 「僕は今回ちょっと守りに入ってます。いままでだと、他のドラマーがやったことないリズムをやってみたくて、ちょっと奇を衒う感じもあったんですけど、今回は大人のドラムをイメージしました」(伊吹)。

 「僕が送るデモには全曲〈ここどうなってんの?〉っていうセクションがあるんですけど、ドラムが安定させてくれるのでありがたいです。そのぶん、ベースはめちゃめちゃ暴れてます(笑)」(真路)。

 『thirsty flair』=〈渇いた才能〉というタイトルには〈良い音楽を聴いたとき、喉が潤った感覚のような拍手喝采(渇才)を〉という意味が込められている。あなたの人生を彩り、潤す〈おいしいおんがく〉。ぜひご賞味あれ。

 


chef’s
ヨシダアヤナ(ヴォーカル/ギター)、フルギヤ(ギター)、高田真路(ベース)、吉島伊吹(ドラムス)から成る4人組。2021年に結成、同年にファーストEP『NOBODY CALLS ME CHICKEN!』を発表。以降もコンスタントに音源制作を行い、2023年のセカンドEP『Cartoon Candy』は好セールスを記録した。2024年に開催の自主企画はソールドアウトが続くなど支持を広げるなか、このたび初の全国流通盤となるEP『thirsty flair』(murffin Lab./murffin discs)をリリースしたばかり。