波が来なければ運がなかっただけ
さらに演歌とラップが混然一体となったインディーズ時代の楽曲“軽トラで轢く”の〈味変〉ヴァージョンでは、本物の演歌歌手・椎名佐千子に歌唱パートを任せることで、一度ならず何度も繰り返し軽トラで轢くという恨み節の執念深さと説得力がグレードアップ。俳優仕事で繋がりのあるYUKI(MADKID)と眩く見える芸能の世界での泥臭いサヴァイヴを歌ったアフロ・ポップ調の“Bright”、以前から交流のあったCOUNTRY YARDのSitと共に自身のルーツであるメロコアに立ち返った“All the things”など、これまでの軌跡をふまえた挑戦曲が並ぶ。そのなかでもとりわけトピカルなのが、ポルノグラフィティの新藤晴一が提供した情感豊かなバラード“ゴースト”。新藤プロデュースのa new musical「ヴァグラント」に主演した縁が結んだ楽曲だ。
「新藤さんとは仲良くさせてもらっています。〈俺を好きに使ってください〉って伝えたら、普段の自分なら絶対に歌わないラヴソングを書いてくれました。〈凌大にラヴソングを歌わせて(ファンを)キャーキャー言わせたいんじゃ〉って(笑)。普段は音程が合ってなくてもソウルがあればいいタイプなんですけど、この曲は繊細に歌いました。以前の俺より歌も上手くなって、成長した先の〈Restart〉の歌ですね」。
そしてバラードがもう1曲。ラテン語で〈何者でもない〉という意味を持つ自作曲“Nemo”は、自身が27歳を迎える日に行われるライヴ〈Bimi Live Galley #04 -Dear 27th-〉のために書き下ろされた楽曲で、アルバムのラストを飾る“27th”のジャジーな〈味変〉ヴァージョンと共に過去の自分への手向けのような側面を持っている。
「“Nemo”は追悼曲というか、いまの自分が過去の自分を葬送する歌ですね。ラヴソングのようでいて全然そうではなくて、この曲の歌詞の〈君〉は全部自分に対して言っています。〈微睡む影〉というのは過去の自分の理想に縛られていることで。“27th”も元のヴァージョンはそれこそ夢の中で微睡んでいるような、〈死のうかな、どうしようかな〉って考えているような感じの曲で、実際に曲を書いた当時はそんな精神状態だったんですけど、今回の〈味変〉ではその過去の自分をあざ笑うように歌っていて。原曲は心の吐露に近かったけど、こっちは作品として昇華できたのかなって思います」。
〈美味=Bimi〉という名前の通り、クセは強いが一度ハマると病みつきになる美味さが詰まった本作は、何者でもなかったBimiがより大きくなっていくための通過儀礼であり、まさに新たな始まりの一枚となっている。
「いまでも自分は何者でもないと思ってますけど、結局他者が評価してくれたらそれがBimiなので。昔は自分がどう思うかがすべてだったけど、考え方が変わりました。正直まだ満足できる結果は出せてないけど、手を差し伸べてくれる人は多いので、そこは自信に繋がっているし、土台は出来たと思うので、あとはデカい波が来るのを待つだけですね。来なければ来なかったで自分に運がなかっただけ。そこはギャンブル好きなので割り切れます(笑)」。 *北野 創
Bimiの2024年のEP『心色相環』(EVIL LINE)