舞台「鋼の錬金術師」をはじめ、数々のヒット作品や話題作に出演する俳優、廣野凌大としての活動と並行し、2021年に幼い頃からの目標だったアーティストとしてデビューしたBimi。ヒップホップ、ラウド・ロック、歌謡曲、R&B、演歌……多種多様な音楽性をミックスさせたハイブリッドなサウンドは異色だ。
「特に影響を受けたアーティストはグリーン・デイとセックス・ピストルズとブラック・サバス。小学6年生のときにギターを始めて、それからバンドを組みました。でも、高校や大学でメンバーが将来のことを考えて就職しちゃって、ずっと続けるつもりだった僕だけ取り残されたんです。そんななか、高校が一緒だったラッパーのMammonから教えてもらったヒップホップが、ロックと同じカウンター・カルチャーとして自分に刺さりました。一人で活動するなら、バンドにこだわらず、ヒップホップも含めた音楽性のほうが良いんじゃないかと思い、いまの音楽のベースを築いていきました」。
あらゆる音楽を取り入れた雑食性の高いサウンドをリスナーに食べさせるという意味を込めてみずからを美味=Bimiと名付けた。そんな彼のメジャー・ファーストEP『心色相環』は、〈喜〉をテーマに日本民謡とスキルフルなラップが混ざり合う“博徒街道”を皮切りに、Bimiにとっての喜怒哀楽をイメージした楽曲が収められている。
「“博徒街道”は、海外のリスナー向けにフロウだけを聴いても気持ち良い曲にしたかったんです。トラックに任侠っぽさを感じたし、自分自身もギャンブル好きなので説得力が出ると思った。これまでラップでは、ちょけてメロに逃げることが多かったんですが、これは真正面から向き合ってみました」。
人間の喜怒哀楽という心の動きを各曲で描きながら、5曲目の“babel”に到達。不穏な鍵盤の旋律に乗せたポエトリー調のラップから始まり、ラウド・ロックに展開。やがてヘヴィーで切実なシャウトが轟く一曲だ。
「エキセントリックな曲調ですが、セールスのことは意識せずに、メジャーの一発目として自分の人生を紹介しておきたかったんです。ラップは、自分の好きなリンキン・パークをイメージしました」。
“babel”は〈往けど往けども道など見えず 其れはあれよという間に朽ちる〉というリリックから始まる。俳優として順調に活動を続け、アーティストとしてもデビューを飾ったBimiからこういった描写が出てくるのはなぜなのだろうか。
「外から見たら順調に見えるのかもしれません。でも、売れれば売れるほど、〈もっと行ける〉って思い、飢えていくんです。ひとつ理想に到達したらそこで朽ちて、また新しい理想が生まれるというイメージがある。豊かな時代でもありませんし、アーティストになれた自分を誇りに思うと同時に、自分の立ち位置に孤独を感じることもあって、“babel”には表裏一体という意味合いも込めました。曲調が少し変わるタイミングで〈難難辛苦 毒は良薬〉っていうリリックが来ますが、自分の失敗や悲しみが結果的に歌詞になることに対して後ろめたさを感じながらも、アーティストとしてはオイシいと思っていて。あと、〈物事の持つ多面性 × 各々持つ感受性=babel〉というリリックは、物事は捉え方次第という意味。(チャーリー・)チャップリンの〈人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である〉っていう言葉は本当にその通りで、そういう視点から綴った歌詞ですね」。
ハングリー精神を糧に、常に上をめざす。現在のヴィジョンを力強く語った。
「Bimiって曲がバズったり、リスナーが一気に増えたりしたわけではないのに、サポートしてくれようとする大人の数がどんどん増えているんです。いまってけっこう逆ですよね。曲がバズってもライヴに来てくれる人は少なかったり。状況は、Bimiに可能性を感じてくれている人が多いということだと思うので、そういう人たちが持っている情熱の炎を自分がさらに灯して、一緒にもっと上に行きたいですね」。
Bimi
舞台「鋼の錬金術師」などで活躍する俳優、廣野凌大のアーティスト名義。2021年6月にファースト・シングル“Tai”を配信し、2022年にファースト・アルバム『Chess』を発表。OHTORAやLilniinaへの客演や楽曲提供などを重ねつつ、東京や大阪でのワンマン成功を経て、2023年に“babel”でメジャー・デビュー。“インベーダーインバイト”“ミツ蜂”など配信での楽曲の発表を経て、このたびメジャー・ファーストEP『心色相環』(EVIL LINE)をリリースしたばかり。