有無を言わせぬ説得力! 王子様キャラに挑んだ〈プリンスTOSHI〉
ミネアポリスが生んだ天才音楽家の系統、ってわけじゃなく、文字どおり王子様キャラに挑んで素晴らしい成績を残した楽曲たちを指す。なんといっても、主演映画「ウィーン物語 ジェミニ・YとS」の主題歌に起用された“ラブ・シュプール”(1982年)こそがこの路線の最高傑作と呼んで差し支えないだろう。高揚感に溢れた歌い出しからして目も眩むようなロイヤルな輝きを放っているこの無国籍なポップソング。リアリティーがスッポリ欠如している現実離れぶり甚だしいパフォーマンスの素晴らしさも含め、こんな曲、彼にしか歌いこなせやしない、と思う。
それにしても、阿久悠が作詞を手掛けた“騎士道”(1984年)といい、こういった曲調と対峙したときに発生する有無を言わせぬ説得力はなんなのだろう? 圧倒的なまばゆさをキープしながら軽やかに〈THE IDOL〉を演じ切ってみせた80年代前半のTOSHIだが、振り返ればセカンドシングル“ハッとして!Good”(1980年)あたりからすでにこういったファンタジーな世界観の萌芽があったようにも思えるし、作詞:吉田美奈子、作曲:呉田軽穂による隠れた名曲“銀河の神話”(1985年)もこの系譜に並べてもかまわない気がする。
徹頭徹尾ハイテンションなノリで突き進む〈ハジけるTOSHI〉
そもそも、あの頃のトシちゃんはいつだってみごとなまでにハジけていた。で、ここではとりわけこの要素が強調されたというか、その部分を巧みにディレクションされたと思わしき楽曲を取り上げてみたい。何はさておき、筆頭格はやっぱり“原宿キッス”(1982年)だろう。全体的にうわずり気味なトシちゃんのボーカルをはじめ、徹頭徹尾ハイテンションなノリで突き進むこの曲が放つ高揚感は、ラッツ&スターの“め組のひと”や郷ひろみの“お嫁サンバ”と同質なものがある。
歌謡曲の畑でごくたまに収穫される破天荒でアナーキーな格好をした突然変異体。僕らはそういう楽曲の到着をいつも心待ちにしているわけだが、全盛期のトシちゃんはそいつをコンスタントに届けてくれていた。そういった名曲が生まれる大事な要素として、良い意味での能天気さが絶対不可欠なわけだが、その仕組みをわかりやすく教えてくれるのが「ひらけ!ポンキッキ」の〈今月の歌〉に起用された“NINJIN娘”(1982年)だ。ここで披露される、太陽光をいっぱい浴びてちょっぴりのぼせ気味の歌唱は、やはりというか他の誰のそれとも似ていない。
そうだ、“恋=DO!”、“ブギ浮ぎI LOVE YOU”(1981年)、“キミに決定!”(1981年)など初期のヒットソングは、彼が浮かれ気味であればあるほどイイ曲ができるのだと証明していたではないか。もちろんそういう場合は振り付け=ダンス面も比例してすこぶる充実していたことは言うまでもない。