
メロンオールスターズでの活動で知った〈多様性〉
――森定さんとの関連で言うと、〈メロンオールスターズ〉というパフォーマンス集団にも参加していますよね。メロンオールスターズというのは、ダンサーもいる大所帯グループですが、渋さ知らズに近い感じでしょうか?
「そういうふうによく言われるんですが、全然違うんです。説明が難しいんですが(笑)、パフォーマンスとしては、台本があり、演劇と演奏が組み合わさっていて。でもすべて台本に書いてあるわけではなく、俳優はインプロを交えながらセリフを発して、その周りで音楽家が演奏をしたり、ダンサーが身体表現をしたりする、という感じです。メロンオールスターズは森定さんが2006年に立ち上げた集団で、森定さんは〈芸能やな〉と仰っています(笑)。
私は森定さんと出会ってすぐ、〈野外でやるけど、観にけえへん?〉と誘われて、滋賀・信楽の山の中の牧場でのライブを観に行ったんです。そしたらとても感動して。その後、私も参加するようになりました」
――メロンオールスターズへの参加は、どんな経験でしたか?
「一言で言うなら……〈多様性〉ですかね。それは森定さんから教わった一番大きなことかもしれません。メロンオールスターズはクラシックの人から譜面が読めない人まで、幅広い音楽家が集まって一つのことをするんですが、〈絶対いろんな人がおったほうが面白い〉と森定さんは仰っていて。〈数は力やから〉と仰っていたのも印象に残っています。森定さんは口数は多くないんですが、ハッとさせられる言葉を放つことがあるので、私の凝り固まった価値観をほぐしてくれたと思います」
――森定さんとは、関谷友加里トリオとしても2008年1月から活動していますね。2010年にボイスの田中ゆうこ(現・由中小唄)さんが加入し、翌2011年にアルバム『ありふれた愛なので…』をリリースしています。田中さんとはどういう繋がりで活動するようになったのでしょうか?
「メロンオールスターズにもいたギターの野津昌太郎くんに紹介してもらいました。初めて会ったのは、野津くんと田中さんが一緒にやっていたライブです。それで、即興ができるボーカリストでこんなにフレキシブルな人がいるんだ、機会があったら誘ってみたいと思って。
ある日、森定さんが急病でライブに出られなさそうだということがあり、代わりに誰かを呼ぼうとなった時、すぐ思い浮かんだのが田中さんで、お願いしたんです。そしたら当日、森定さんも出られることになり(笑)、4人で演奏したんですが、それがとても良かった。そこから4人で演奏するようになり、ツアーをして、最終日にレコーディングした音源が『ありふれた愛なので…』です」
――それが関谷さんのファーストフルアルバムになったと。
「そうですね。2011年に発表して、レコ発ツアーを回り、さあこれからだって時に、私が妊娠して。活動が一時休止してしまいました」
子供を産んでも、情熱があるなら音楽を絶対やめないで
――2010年にドラマーの定岡弘将さんが率いるカルテット〈セロニアスモンク大学〉も結成しています。まさにさまざまな活動が始まったタイミングと言いますか。
「そうなんです。2012年に第1子を出産し、その後復活して、2014年にセロニアスモンク大学のファーストアルバム『SEMODAI』を出しました。いい感じに持ち直したんですが、2015年に第2子を出産することになり。その頃は、正直、ちゃんと音楽活動ができていませんでした。マインド的にも〈呼んでくれてありがとう〉ぐらいの感じで、自分でバンドを率いるのはとてもじゃないけどできなかった。細々としか活動できない、けど、音楽活動は止めたくない……という葛藤を抱えながら30代を過ごしました」
――どなたか相談できるミュージシャンの方はいらっしゃいましたか?
「いなかったです。第1子を妊娠した時、お子さんのいないミュージシャンから〈そう決めたなら頑張れ〉と言われたことがあり、とても重い言葉だなと受け止めました。その人にはその人の決断があったんだ、と伝わってきましたし。私としては、頑張ろうと決めたはずが、誰も私のことを待っていないんじゃないかとか、そういうマインドになってきて。その頃は、この先どうなるんだろうと、不安が大きかったです」
――ロールモデルになるミュージシャンもいなかった?
「当時は見当たりませんでしたね」
――たとえば、秋吉敏子さんも子育てに対する葛藤を自伝で赤裸々に綴っていました。
「そうですね。最近もNHK-FMの放送(『Japan JAZZ Archives 秘蔵音源でたどる巨人の足跡(1)』。初回放送は2023年10月9日。2024年12月31日にアンコール放送)を聴いたんですが、小曽根真さんが聞き手で秋吉さんが話されていて。秋吉さんはロサンゼルスに移住後、家庭に入ろうと思っていたと。けれど、夫のルー・タバキンから〈君は音楽家なんだから、やめないほうがいい〉〈僕がミュージシャンを集めるから、君は曲を書いて〉と言われ、それが秋吉敏子=ルー・タバキンビッグバンドの立ち上げに繋がったと。すごいなと思いました。
今振り返るとですが、神戸を拠点に活動しているピアニストの西島芳さんという方がいて。2008年に、同じくピアニストの西山瞳さんが企画した〈Jazz Complex〉というイベントで対バンさせていただいたんです。ちょうど西島さんは出産後で子育ての真っ最中だったと思うんですが、シンガーの小笠原千秋さんと組んだユニット〈GOTOKU〉で、まさに子育てのことを曲にしてたんですよ。当時の私はまだ子供がいなくて、〈可愛い曲だな〉としか思っていませんでした。でも、今から考えると、大変な時期にそういう形で音楽活動と日常生活を繋げていて、すごいなと思います」
――もし、これから子育てをするミュージシャンから相談を受けたら、どんなアドバイスをしますか?
「〈絶対にやめないでね〉って、今なら言えます。細々とでもいいから、音楽活動は続けるべきだと思うんです。理想と違っても、続けられる方法を探すしかない。たとえば夜ではなく昼にライブを入れるとか、工夫できることはいろいろあるので。とはいえ、〈諦めない情熱があなたにあるなら〉ですね。子育てに専念したい方もいるでしょうし、手がかからなくなってから復帰しようと考える方もいると思います。でも今やりたいことがあるなら、その方法をなんとか考える。どんどん他人に頼っていいと思います。とにかく、音楽への情熱が切れてしまわないように、できることを探してほしいです」