
ブルースの背景も熱く教えた指導者・妹尾隆一郎
――妹尾さんの音楽をどんな軸で語るかに移りたいと思います。70年代当時、妹尾さんがどういうアプローチでブルースに向き合っていたのか?といったことですね。
永井「妹尾君も俺もブルースのオリジナルの解釈やリズムにはすごくうるさかったです。ただ、あの頃はガイドブックもネットもなかったので苦労しました。当時の歌詞カードはでたらめが多かったのもあり、妹尾君とは歌詞の解釈についてもかなり話し合いしましたね。“Ain’t Nobody’s Business”の〈Ain’t〉ってどういう意味?とか。学校の授業で習わない英語の話をよくしましたね」
妹尾「妹尾さんは歌詞の内容や背景について掘り下げて勉強していました。ブルースといえば〈お酒と煙草と〉というイメージが今もあるかもしれませんが、イメージでなくもっと人間のあり方に迫ろうとしていたような」
安藤「暗くて渋くて近寄りがたいイメージですよね」

永井「あと妹尾君が独自に開発したブルースハープの譜面っていうのがあったけど、あれはすごいよね」
妹尾「そのことは妹尾さんにハーモニカを習っていた安藤さんに訊きたいです。そもそもなぜ妹尾さんに習っていたんですか?」
安藤「僕は、最初に好きになったのがサニー・ボーイ・ウィリアムソンIIだったんです。サニー・ボーイのようにハーモニカを吹きたいと思ったのですが、一人で練習してもうまくならない。それで教えてくれる人を探したら妹尾さんに行き当たったんです。雑誌の『bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)』か教則カセットで知ったのかな」
妹尾「何年頃ですか?」
安藤「1985、1986年頃です。ローラーコースターのライブもJIROKICHIへしょっちゅう見に行っていました。当時はお客さんもパンパンでね。確かに妹尾さんの教室では独自のメモをもらいました」
妹尾「鬼教官だったんじゃないですか?」
安藤「そこまで厳しくはなかったですね。僕は芽が出なかったから(笑)。入ってすぐに全員やらされたのはリトル・ウォルターの“Juke”で、練習用のテープには妹尾さんが吹いたバージョンやバックの演奏だけのカラオケなどが入っていました」
――ハーモニカという楽器も10ホールとクロマチックの違いなどは重要ですがやや専門的で、さらに〈ブルースのハーモニカ〉ということで、二重にわかりづらいのではと思います。
永井「でもハーモニカって吹いて吸えばすぐ音が出るからいいけど、ギターは最初弾こうとしたらまずまともな音が出ないし、すぐ指が痛くなってめげる(笑)」
安藤「ハーモニカも最初は唇が切れてガサガサになるんですよ(笑)」
永井「とにかく妹尾君は日本のブルースハープの本当のパイオニアです。人柄もあって頼ってくる人がたくさんいて、〈妹尾一門〉なんて言葉もあったぐらいブルースハーモニカのお師匠さんのような存在だった」
妹尾「当時は妹尾さんに習うしかなかったんじゃないかな?」
安藤「ほかにいなかったですね」
妹尾「最初、本人は教えたかったわけじゃなく、〈習いたい〉と押し掛け弟子が来るようになって〈じゃあ、やろうか〉となったみたいです」
永井「ちゃんと教えてたのかね?」
妹尾「ある生徒の方は〈理不尽〉と言っていました(笑)。吸い方について、〈ちょっとマックシェイク買ってこい。お前、マックシェイクをどうやって吸っとんのや?〉なんて言ったり。何を言っているかわからなかったそうです(笑)まあ、それはそれとして教え方は熱かったし、テクニックだけでなくブルースの背後にあるものまで伝えたかったんじゃないかな」

妹尾君のような音を出す人はいない
永井「今、ハーモニカ吹く人はたくさんいますけど、僕にとって妹尾君はハーモニカの音が一番いい人です。楽器ってテクニックの前に音が大事なんですよ。妹尾君みたいな音を出す人はいないんです」
妹尾「妹尾さんは、うまいというのとちょっと違いますよね。もしかしたら今聴くと〈大したことない〉と思う人がいるかもしれない。でも、テクニックじゃないんです」
永井「妹尾君は吹きまくって〈どや!〉って感じもまったくなかった。一緒に演奏していると〈もうソロ終わるの?〉って思うことがよくあって、本人は〈これぐらいでええやろ!〉と言っていましたし、やたら吹きまくるタイプではなかったですね。たぶん曲全体のバランスを考えていたんだと思います」
妹尾「今回初めてお披露目されたディスク2を聴いて驚いたのですが、もっとアドリブを回していると思っていたんですよ。そうじゃなく、曲全体の構成を決めて演奏しているんですね。ソロ回しで聴かせるブルースじゃない。そこがすごいですよね」
永井「ブルースって好き勝手自由にやれるフォームじゃないですか。だけど、〈ここは絶対にこうやらなきゃ〉っていうことを習得する必要もある。
マジック・ディックとJ・ガイルズがブルースのカバーアルバムを作った時にインタビューしたことがあって、〈イントロとかがオリジナルと一緒ですね〉と訊いたんです。そうしたら、それが?と返されて。〈じゃあ、お前はビートルズの“Day Tripper”のイントロを違う風に弾くか? “Help!”に前奏を付けるか? ブルースもそれと同じ。リトル・ウォルターが吹いているあのイントロ以外に最善の方法はない。あれよりいいものが作れるんだったら俺は吹くけど、あれが考え抜かれたベストなんだ。ブルースも曲なんだ〉って。ただ自由にやるための音楽じゃなくて、ブルースも曲なんです」