
オーストラリアを代表する姉弟デュオの片割れはソロでも絶好調! 眩いサイケデリアにまどろむほどのメロウネス、ドープな音にまみれながら黄金の狼はどこに向かう?
ニュー・アルバム『Golden Wolf』をリリースするドープ・レモンことアンガス・ストーンの創作意欲はとどまるところを知らないようだ。
アンガス・ストーンは姉のジュリアと組んだオーストラリアを代表するインディー・ポップ・デュオ、アンガス&ジュリア・ストーンのヴォーカリスト兼ギタリストだ。フォークやソウルの影響が滲むメランコリックな音楽性が歓迎された同デュオは2010年にリリースしたセカンド・アルバム『Down The Way』が全豪No. 1ヒットになったことに加え、〈オーストラリア版グラミー〉と言われるARIAミュージック・アワードで〈年間最優秀アルバム〉を含む5部門を受賞。本国での人気を確かなものにした。リック・ルービンがプロデュースしたサード・アルバム『Angus & Julia Stone』(2014年)で、彼らを知ったというリスナーもいるだろう。同アルバムも全豪No. 1を記録した。
その後、アンガスは2016年にドープ・レモン名義のソロ・プロジェクトをスタート。デュオではできない、もっとパーソナルでローファイなスタイルを追求してみたかったようだ。サウンドも含め、〈ドープ〉であることもテーマのひとつだったのだろう。今回の『Golden Wolf』は5枚目のアルバムなのだが、10年間でアルバム5枚というリリース数もさることながら、前作の『Kimosabé』が2023年9月、前々作の『Rose Pink Cadillac』が2022年1月のリリースだから、ドープ・レモンの活動が年々勢いを増してきていることが窺える。しかも、『Rose Pink Cadilac』とその前の『Smooth Big Cat』(2019年)は全豪2位になったのだから、アンガスのキャリアにおいてこのプロジェクトが大きな存在になっていることは想像に難くない。
そんなドープ・レモンによる新たな音楽的冒険の始まりが今回の『Golden Wolf』だと、アンガスは考えているようだ。たとえば、ベックの『Mutations』や『Sea Change』などに通じるレイドバックしたドリーミーな音作りはこれまで通りながら、ドープ・レモンの音楽が内包してきたソウルの影響とサイケデリックなサウンドが剝き出しになったことで、曲がより研ぎ澄まされたという印象を本作からは受ける。その象徴がディレイを掛け、音色を揺らしたエレキ・ギター、あるいはシンセ・リフを加えながら、70年代のスウィート・ソウルを現代に蘇らせたような先行シングル“Electric Green Lambo”と“Sugarcat”なのだが、他にもスコットランドのニーナ・ネスビットとデュエットした“She’s All Time”のソウルとポップスとカントリーのエッセンスがグルーヴィーに混ざり合った空気も聴き逃せない。
また、サイケデリックなサウンドメイキングという意味では“Yamasuki - Yama Yama”と“Dust Of A Thousand Stars”の2曲が出色。2014年に71年作『Le Monde Fabuleux Des Yamasuki』がリイシューされて話題になったフランスのサイケ・ロック・ユニット、ヤマスキの曲をカヴァーした前者、シタールとオルガンの音色がいかにもな後者。アフロ・ファンクとラテンという違いこそあれ、どちらもサイケデリックなサウンドの中に渦巻いている強烈なダンス・グルーヴに惹きつけられる。
“We Solid Gold”のような、かつてのドープ・レモンらしい空間系のギター・ポップはもはや懐かしいくらいだ。自身の青春期を振り返るという回顧的なテーマの前作に対して、『Golden Wolf』ではアンガスの意識はその先の未来に向けられているというのだから、それは当たり前だろう。同じ空間系のギター・サウンドを奏でても表題曲は跳ねるリズムで差を付ける。フォーキーでエキゾチックな“On The 45”の凝ったハーモニーワークにもぜひ耳を傾けてほしい。
なお、シンセが前面に出た音像の中でバリバリと、ほぼ全編で鳴るアンガスのギターも聴きどころのひとつであることを最後に付け加えておく。
アンガス&ジュリア・ストーンの作品。
左から、2024年作『Cape Forestier』(PIAS)、2014年作『Angus & Julia Stone』(Republic)
ドープ・レモンの作品を紹介。
左から、2016年作『Honey Bones』(EMI/BMG)、2019年作『Smooth Big Cat』、2022年作『Rose Pink Cadillac』、2023年作『Kimosabé』(すべてBMG)