香港と日本の音楽文化をつなぐタワレコ渋谷店の〈香港音市〉

2025年4月26日、タワーレコード渋谷店5Fイベントスペースにて、香港と日本の音楽文化をつなぐ新たな取り組み〈塔音渋谷『香港音市』〉のキックオフイベントが開催されました。

本イベントでは、香港を代表するシンガーソングライターのケンディ・スウェン(Kendy Suen)と、香港で長年活躍する日本人作曲家・波多野裕介が登場。アコースティック編成で、香港と日本の音楽のルーツをたどるような珠玉のカバー曲とオリジナル楽曲を披露し、詰めかけた観客を魅了しました。

同店7Fでは特設コーナーも同時オープン。80年代から現代に至るまで、香港ポップスのフィジカル作品が一堂に会し、日本ではなかなか触れる機会の少ない香港音楽の奥深い魅力を紹介しています。

 

大胆さと高い技量を兼ね備えたボーカリスト、ケンディ・スウェン

本ライブが行われたのは、タワーレコード渋谷店5階のイベントスペースです。先着で配布された無料観覧券はすべて配布終了となり、急遽2部構成での開催が決定しました。ライブ当日は多くの観客が詰めかけ、1部の開始前には、イベントスペースが人で埋め尽くされるほどの盛況ぶりとなりました。

ケンディと波多野がステージに登場すると、観客席からは大きな歓声が沸き起こりました。ケンディは笑顔で観客席を見渡し、そのまま1曲目“帝女花”の演奏を始めます。

今回演奏されたのはアンビエントリミックスバージョンで、幽玄なパッドシンセのサウンドに、ケンディのファルセットボイスと波多野による滑らかなタッチのピアノが重なり、会場はまるで深い海へと沈み込んでいくような神秘的なムードに包まれます。

途中からはベースラインや変則的な打ち込みビートも加わり、ケンディが自身のボーカルをサンプリングするなど、楽曲はドラマチックに崩れていくような展開を見せます。1曲目にこのような実験的なアプローチの楽曲を持ってくるケンディの大胆さには、思わず感心しました。

“帝女花”のアウトロが終わるや否や、2曲目“維納斯的誕生 The Birth of Venus”のイントロへと移ります。〈トリップホップ調のフォークロック〉とも形容できる本楽曲で、ケンディはアコースティックギターを手に取り、グルーヴィーなビートに合わせてリズミカルなコードストロークを重ねていきます。“帝女花”の内省的な雰囲気から一転、水面に浮かび上がるように、開放的で明るい空気へと変わっていきました。

“維納斯的誕生”でのケンディの歌唱はまさに変幻自在で、時に声を張り上げ、R&Bのように言葉数の多いリズミカルなフレーズを歌い上げたり、繊細なファルセットでフェイクを入れたりと、その表現力の豊かさが際立っています。安定感もあり、ボーカリストとしての高い技量が改めて伝わってきました。

 

共生や明るい未来の創造を伝える歌詞

地響きのような力強いキックによるビートが印象的な3曲目“物無類聚 Shinka”のイントロが始まると、ケンディは両手を頭上に掲げて手拍子を促し、「Can I have a clap?(手拍子をしてもらっていい?)」と観客に呼びかけます。

本楽曲はトリップホップの要素を感じさせつつも、アラニス・モリセットのような90年代アメリカの女性シンガーソングライターたちの楽曲をも彷彿とさせました。そこに広東語の歌詞が乗ることで、唯一無二の音楽に昇華されています。

“物無類聚”というタイトルには、〈異なる者たちが共に新たな未来を目指して集う〉というメッセージが込められており、再生・共存・希望をテーマにした深い歌詞も大きな魅力です。壮大な世界観とともに、〈明るい未来を作り上げよう〉という活力に満ちたエネルギッシュな楽曲となっています。

楽曲が終盤に差し掛かると、波多野が煌びやかなブラスサウンドで、ラーガ調の音階を用いたシンセソロを披露しました。さらに、ケンディが自身のボーカルをサンプリングし、それを歪ませ、反復させることで、カオティックなクライマックスへと突入します。