P!SCO

台湾の若手10組が集結した〈台湾音市〉

2024年9月6日〜8日の3日間、台湾の新世代アーティストが集結するライブイベント〈塔音渋谷『台湾音市』音楽祭 Vol.1〉が、タワーレコード渋谷店B1FのCUTUP STUDIOで開催されました。

〈台湾音市 Vol.1〉は、台湾で頭角を現す若手アーティストに焦点を当てたラインナップが特徴。キャッチーなダンスロックサウンドが魅力のP!SCOや、Mikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)とのコラボによる日本語曲もリリースしているGOTA、瑞々しいポップロックサウンドを奏でるGGteens(公館青少年)など、独自の音楽性を持つ10組が選出され、エネルギッシュなパフォーマンスを披露しました。

 

音楽の発信地タワレコ渋谷で日台の文化交流を促進

〈台湾音市 Vol.1〉の開催が実現した背景には、台湾のインディーシーンの盛り上がりがあります。近年は、Sunset Rollercoaster(落日飛車)やElephant Gymといったアーティストが世界に進出し、日本でも人気が高まっています。

〈台湾音市 Vol.1〉で出演者をコーディネートしたBees Factory(蜜蜂工房)のゼネラルマネージャー、ブルース・チャン(張恭懷)氏は、「10年後にスーパースターになるかもしれない期待の若手をセレクトしました。音楽の発信地でもあるタワレコ渋谷店で彼らのライブを行うことに大きな意味があります」と語りました。

Bees Factoryは、1998年の創業以来、日本の音楽や映画を配給し、日本のタレントを招いてイベントを開催するなど、日本コンテンツの普及・発信に注力して事業を展開してきました。ブルース氏は、「台湾の音楽を日本に紹介するには、これまで政治的な問題や流通の難しさがありました。しかし、現在はSNSの普及により、日台の若手が繋がりやすくなり、コラボレーションも増えました。台湾のアーティストが日本でライブを行う機会も増え、今では台湾の映画や音楽を好む日本人も多くいます。今後、さらに双方向の文化交流を促進していきたいです」と未来への期待を語りました。そして「〈台湾音市〉は継続したいですし、次回は第1回で取り上げなかった音楽ジャンルにも挑戦したいです」と付け加えました。

 

ABURA(游雲揚)

LEIGHT NINE、NUTS、RANDOMが出演した初日

〈台湾音市 Vol.1〉の初日、急遽参加が決まった台湾の若手DJ、ABURA(游雲揚)が、ライブ開始前に6Fでパフォーマンスを行いました。ABURAがプレイした楽曲は、最新の台湾ヒップホップやR&Bが中心で、ベースとキックの低音が強調されたアグレッシブな音が印象的。体にビリビリと伝わる音の振動から、〈とにかく観客を踊らせたい〉という強い意志が感じられました。「日本でのパフォーマンスは今回が初めて」というABURA。当初、ブース周辺にはあまり人影が見られませんでしたが、徐々に観客が集まり始め、最終的には多くの人が体を揺らしながら聴き入っていました。

LEIGHT NINE

ABURAのパフォーマンス終了後、会場であるB1FのCUTUP STUDIOへと向かいました。1組目は、電子音楽と伝統文化を組み合わせるLEIGHT NINE。会場はすでに多くの観客で賑わっており、台湾情報を発信しているインフルエンサーや関係者の姿も見られ、イベントの注目度の高さがうかがえました。

LEIGHT NINEは、Hormone Boys(荷爾蒙少年)のボーカリスト、ルーク・チャン(詹詠安)による新たな音楽プロジェクト。ルークは伍佰のロックオペラ「成功之路:How To Be A Rock Star」で主役に抜擢されるなど、大注目の存在です。

LEIGHT NINEのライブは、ルークとシンセサイザー奏者のWeiによるデュオ体制。硬質な打ち込みのドラムと地を這うようなシンセベースの上で、ルークはドラムとギターを交互に演奏しながら歌を重ね、デュオとは思えない迫力ある演奏を展開。キャッチーなメロディーの中にバウハウスなどのポストパンクバンドを彷彿とさせるダークなムードが漂っており、確固たる世界観を感じさせました。

NUTS(核果人)

2組目は、台湾の大型フェス〈2023 大港開唱 MEGAPORT FESTIVAL〉にも出演している実力派、NUTS(核果人)。ショルダーキーボードを携えたボーカリストやラッパー、クラリネット奏者など個性溢れる6人編成で、ステージに上がった瞬間、場が一気に華やぎました。

ライブが始まると、シティポップやAORを思わせる都会的で煌びやかなポップスでありながら、意外性のある展開や緻密なアレンジで聴き飽きさせずに観客を楽しませるNUTS。例えば2曲目の“大度路限速七十”では、ソウルフルな歌唱にハイテンションなラップが重なり、間髪入れずにギターソロが飛び出す様子は、まさに〈最初から最後まで全てが見せ場〉と言っても過言ではないほどの迫力でした。歌詞がわからなくても視覚と聴覚で楽しめるバンドであり、今後は海外へと活動の場を広げる可能性を大いに感じさせました。

RANDOM(隨性)

初日のトリを飾ったのは、今年で結成19年のロックバンド、RANDOM(隨性)。パンク、メタル、ファンクを融合させた多彩なスタイルと、台湾語による歌唱が特徴です。

1曲目の“噴射時代”から凄まじい音圧に圧倒されました。ボーカリスト、ダンガオ(蛋糕)のハスキーで張り詰めた歌声は、〈分かりやすくロック〉でカッコよく、時折、デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラを思い起こさせます。ダンガオはMCで「昨夜はホテルの空調が寒すぎて寝られなかった」「日本人は台湾の小籠包が美味しいと言うけど、自分は普通だと思う」など、奔放な発言を繰り広げ、忖度のない率直さに好感を持ちました。

ライブ後のインタビューでダンガオは台湾語で歌うことについて、「私の祖母は台湾語しか話せません。台湾固有の言語ですし、私は台湾語を話している時が一番楽ですから」と語っていました。言語へのこだわり自体が台湾ならではの複雑なコンテキストと結びついて、より一層ロックに響いていると言えます。