Page 2 / 3 1ページ目から読む

世の変化についての考えを音楽へ昇華

3曲目が終わると、ケンディは日本語でMCを行い、「今回のライブのために特別なセットを用意しました。香港の古いヒット曲、オリジナル曲、そして日本のヒット曲です。ぜひ楽しんでください」と語りました。続けて、「私のオリジナル曲は、世の中の変化について、自分が感じたことや考えたことを歌っています」と解説し、次に演奏される日本語のオリジナル曲“白眉”については広東語で紹介しました。その内容を波多野が通訳し、ケンディが2年前から日本で演奏を始め、その中で感じたことを歌にした作品であることが明かされました。

4曲目に演奏された“白眉”は、ケンディが爪弾くパーカッシブなギターから始まります。これまでの3曲とは打って変わって、ケンディのギターと、波多野のピアノだけで構成されたシンプルなアレンジです。それだけに、ケンディの声の良さが際立ち、会場のオーディエンスは皆、静かに聴き入っていました。

“白眉”は、〈荒涼とした世界でも、明るさと美しさを生き抜くことができる〉という再生と希望の歌で、原曲は広東語で書かれています。本ライブで演奏されたのは、日本語詞バージョンの“白眉 Hakubi(やよい mix)”で、「本当は脆くて わざとらしいって/言われてもいい」、「甘ければ/甘いほど/苦いのさ」といったフレーズが印象的でした。冷静さとロマンチズムの間を行き来するような、アンビバレントな感情を見事に描き出した歌詞に、ハッとさせられました。

5曲目は香港の伝説的バンド、BEYONDの楽曲“遥かなる夢に”のカバー。BEYONDは日本にも進出し、日本語によるオリジナルアルバム『超越』(1992年)を発表しています。1993年にボーカルのウォン・カークイ(黄家駒)が日本のテレビ番組収録中に事故に遭い、東京都内の病院で亡くなり、香港・アジアの音楽ファンに大きな衝撃を与えました。

“遥かなる夢に”は、波多野のピアノ伴奏とケンディの歌による、スタンダードなアレンジで演奏されました。ケンディがこの曲の歌詞とメロディーを、誠実に、そして丁寧に届けようとしている姿勢が強く伝わってきます。

演奏中、ケンディが一瞬メロディーの音を外したり、言葉に詰まるような場面がありましたが、演奏後には「すみません、超感動しました」「この曲をこのような場で歌うのは感慨深いです」と語り、感極まってしまったことを明かしました。

 

音楽都市・香港の魅力を伝えたい

6曲目の“無名故事 Our Story”は、波多野による流麗なピアノのイントロから始まり、メロディーの美しさが際立つバラード曲です。タイトルの“無名故事(名もなき物語)”が示すように、この楽曲は、誰にも知られることのなかった人々の心の記憶や出来事を静かに歌い上げています。ケンディが一つひとつの余白を慈しむように、鷹揚に歌うその姿には、深い安心感がありました。

“無名故事”の演奏終了後、ケンディは再び日本語でMCを行い、「私の曲を皆さんに聴いてもらうことで、香港が〈音楽都市〉として持つ魅力が伝わったら嬉しいです」と語りました。そして今回のコンサートをきっかけに、より多くの香港のミュージシャンたちが日本で演奏するようになることへの期待も表明しました。

7曲目は、“日月無常”のエレクトロファンクバージョンです。ケンディは「立って踊ってもいいですよ」と観客に語りかけました。太いビートとベースが会場を揺らし、ケンディのリズミカルなボーカルが重なっていく中、観客は手拍子で演奏に参加します。

途中では波多野がピアノソロを披露し、その卓越したスキルを存分に発揮しました。バラードで少ししんみりとしていた会場が一気に温まり、よく構成されたセットリストであることが感じられました。

そして、1部の最後を飾ったのは“尋愛”でした。竹内まりやの楽曲“Plastic Love”を、アニタ・ムイ(梅艷芳)が広東語でカバーしたバージョンが原曲となっています。昨今のシティポップブームもあり、日本でも世代を問わず親しまれているメロディーということもあって、多くの観客が体を揺らし、楽しみながら聴き入っており、ハッピーなムードの中で1部が締めくくられました。