唯一無二のロック・オーケストラを!

 GACKTは、インタヴューで繰り返し「ロックとクラシックの真の融合」という言葉を口にした。4月13日にすみだトリフォニーホールで行われた〈GACKT PHILHARMONIC 2025〉は、そこに挑んだコンサートだった。

 「2013年にオーケストラにボクが乗っかるカタチでコンサートをやったけど、得るものがなくて、自分の想像の範囲内で全て終わってしまった。それが続けなかった理由なんだけれど、どこかでロックとクラシックは融合出来るものか。出来るのであれば、実現させたいという想いがあった」

GACKT 『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』 ユニバーサル(2025)

 その構想を具現化させるためには問題点がいくつもあった。ひとつは音の出力の問題。

 「生のステージでバンドの音楽と、70名以上のオーケストラが混在するというのはそもそも無理があるというか、音の出力の問題からアンサンブルとして成立しにくい」

 それを成立させて、なおかつ「生で聴いた時にこんな音楽は、聴いたことがないという高み」を求めて、試行錯誤の実験がスタジオで1か月もの間、緻密に積み重ねられた。

 「オーケストラは低周域から高周域まで音像がかなり広く使われているんだけど、全部埋まっているわけではなく、デッドスポットというものが結構ある。そのスポットを曲ごとに探し出して、そこにハマる音作りをドラム、ギター、ベースでそれぞれやっていくと、音量をあげなくてもバンドの音がちゃんと聴こえる。その音作りを全ての曲でやる必要があった」

 それを極めた13曲が演奏された。当然全てがGACKTのレパートリーになる。

 「オーケストラとの親和性のある曲だと、アレンジがしやすいし、よりその世界観を広げることが出来る。ボクの楽曲は全部ではないけど、もともと3歳で声楽とピアノを始めて、ずっとクラシックの人間だったから、親和性の高い曲が多い。そのなかから絞った13曲になってる」

 その親和性の高さを端的に示すのが組曲“FOUR SEASONS”。“白露-HAKURO”から始まり、季節をテーマにしたバラードで編成されていて、最後に歌った“雪月花 -THE END OF SILENCE-”以外の曲ではGACKTが自らオーケストラを指揮している。

 アルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』は、そのコンサートを収録したライヴ盤だが、音源化に伴いエンジニアが音のバランスなどを調整したものではなく、音作りを突き詰めたステージでの演奏をそのまま聴けるのが最大のポイントだ。

 また、「ボクにしか出来ないもの」を目指したコンサートは、演出面でもバンドと共に70名のオーケストラ全員がマスクをつけたり、立奏したりするなかで、GACKTの世界観が貫かれていた。 「正直言うと、当日やってみるまで成立するかどうか、わからなかった。でも、圧倒的な演出の世界観のなかで、自分が予想立てたことが全部うまくいったから、ツアーに持っていけるという確信に変わった」と。

 今後予定されるツアーではもっと進化させた演出で、「唯一無二のロック・オーケストラになる」と言う。そして、彼が追求する〈真の融合〉は、言うならば、彼の原点と現在の完璧なる邂逅でもある。それは元来のファンのみならず、ロックファンにもクラシックファンにも新たな世界として刺激をもたらすはずだ。まずは、このライヴ・アルバムで体感してほしい。