そのロックンロール、雷鳴の如し。ワイルドサイドを邁進し続ける5人組の新作は、泣く子も黙る豪胆さの背後で匠の技が閃く!!

 20世紀末に登場した直球勝負の剛腕ロックンロール・バンド、バックチェリーの第11作目『Roar Like Thunder』。四半世紀を超える時間経過のなかで解散と再結成、度重なるメンバー・チェンジを経てきたが、骨太で虚飾のない演奏スタイルと、良い意味での頑固さに変わりはない。彼らのアルバムには、AC/DCやエアロスミスといったロックの先人たちの楽曲と並べても違和感や遜色のない普遍性を感じさせるキラー・チューンが常に何曲か収められてきたが、今作においてもそれは同様で、しかも完璧に編まれたセットリストのように各曲が見事にガチッと噛み合い、アルバム全体が機能的なスピード感に支配されている。

BUCKCHERRY 『Roar Like Thunder』 Round Hill/ソニー(2025)

 プロデューサーは、これで3作連続での起用となるマーティ・フレデリクセン。ロック・バンド然とした豪快さとワイルドさを保ちつつ、現代的に洗練された音作りをすることに長けている彼との相性もいい。このバンドには実はバラードの名曲も少なくないし、近作ではナイン・インチ・ネイルズやブライアン・アダムスなどのカヴァー曲が良いアクセントになっていたりもしたが、今作においてはそうした要素が一切ない。ただ、あくまでハードな作風に徹していながら、ビートルズ的な手触りを伴う“Hello Goodbye”のマジカルな広がり、ダウンテンポでありつつも聴く者の腰を無条件に揺らすはずの“Set It Free”のセクシーなグルーヴといったものが、アルバム自体に絶妙な起伏をもたらしている。そして彼らがもっとも得意とする、初めて聴いたその瞬間から同調できるようなAC/DC型の必殺曲も当然のように配されている。何の変哲もない直球主体の作品のようで、実は変化球がこっそりと効果的に織り交ぜられた、計算の行き届いた一枚に仕上げられているのだ。

 正直な話、常に平均点以上の作品を世に出し続けていながら、突出した名作がないバンドのような印象があるのも否めないし、この種の普遍的ロックンロールがいまの時代において斬新なものだとはいえない。しかしここには間違いなく安心感以上の説得力と、彼らの上の世代とも下の世代とも異なった魅力がある。本当に痛快だ。

バックチェリーの近年の作品。
左から、2023年作『Vol. 10』、2021年作『Hellbound』(共にRound Hill)