BAD KNeeを拡充する鬼才が、地元の福岡から描く現在のヴィジョンとは?

 音楽制作集団・SCRAMBLESを率い、BiSやBiSHのサウンド・プロデュースで名を馳せた松隈ケンタ。近年は故郷の福岡を拠点に、自身のバンド・Buzz72+でもマイペースに動きつつ、プロデューサーとして新しい学校のリーダーズやi☆Ris、内田真礼、鞘師里保らに楽曲を提供したり、映画「十一人の賊軍」のサントラを手掛けるなど多彩な活動を継続している。最近ではいぎなり東北産の新曲“背徳のエビデンス”を手掛け、先日もBuzz72+の新作『twenty』を配信したばかり。そんな彼が力を注ぐプロジェクト/レーベルのBAD KNeeは現在5つのアイドル・グループを擁する大所帯となっているが、その起点となったGirls be bad(GBB)結成時のヴィジョンについて松隈はこう振り返る。

 「立ち上げ前は〈福岡から世界をめざそう〉というテーマで考えてました。グループ名も実は1年ぐらい前から構想はあって、ロゴマークだけ先に作ってたんですよね。海外の知り合いのバンドマンの先輩にアメリカ人から見てどの名前がいいか訊いて、〈Girls be badは意味は通じないけど超カッコイイね!〉って言っていただいたりして。僕の意図は〈少年よ、大志を抱け(Boys, be ambitious)〉みたいな感じで、〈少女たちよ、ロックンロールで悪くなれ〉っていう感じだったんですけれども、いざ集まってみたらメンバーがユルいっていうことに気付いたんですね(笑)。でも、そのいい感じのユルさに昔のPUFFYを思い出して、わかりやすく言うと〈令和のPUFFYだな〉という感じになりました。ただ、我々の世代から見るとユルく見えても、話してると確実に熱いものは持ってるんです。いま生きてる青春感が見えるというか。決してダルダルではなく、むしろ真剣で、真面目で、何者かになりたいというパワーを凄く持っているんだなと。それに気付くのにちょっと時間はかかりましたけど。いまは高校の軽音部と触れ合ったり、福岡の日本経済大学で音楽を教えていて、実は大学教授なんですよ、僕(笑)。なので、そこで学生と喋ったりして、その世代のセンスからインスピレーションを感じてる部分は凄く大きいですね」。

 そういう感覚の変化が、東京に拠点を置いていた頃と比べてもっとも変わった部分かもしれない。

 「もうホントにおっしゃる通りで。これはどっちが正解とかはないんですけど、やっぱり東京はせかせかしてますし。ちょっと遠くの福岡から音楽業界を見てるうちに、そっちに自然と流れていった感じですかね。僕が表現したい方向とか、アーティスト、音楽というものが、2025年のいまはこの感じだって素直に出せたのが、いまのGBBとか今回の『sixteen’s pleasure』だと思います」。

 その『sixteen’s pleasure』のテーマについてはこう説明する。

 「前作は、スタートした時の僕の衝動とメンバーの衝動を16曲に収めたという意味で『sixteen’s mind』なんですけど、今回の『sixteen’s pleasure』は〈青春〉をテーマにしてるんですね。なんで、彼女たちの青春を切り取りつつ、僕の青春も入れたいなと思ったんですよ。高校の時の同級生にミリガンロボットっていうバンドがいたんですけど、そのリーダーだったSHINKっていう奴と奇遇で飲むことになって、話してるうちに30年前に彼らがやってた曲のことを思い出して、〈あの曲良かったよね。ちょっと使わせてよ〉とお願いしたらOKをもらって。それが“カリメンドライブ”なんです。彼はもう音楽やってないんですが、ギターも弾いてもらって、学生時代の軽音部の部室みたいな感覚で一緒に作って。僕からすると青春の曲になりました。あと、“太陽を覗く君と”は、PEDROとかHack the Ceremonyにいた毛利匠太がもともとうちのスクールに通ってた頃に発表会で聴いて、〈とんでもねえ曲作ったな〉ってなった曲なんです。いま彼はSCRAMBLESで作家としてバリバリやってるんですけど、温存していたこの曲が合うなと思って収録しました。今回は、1曲目に“B.K.GARAGE”があるように、僕が新しいガレージ・スタジオを作ったので、〈イントロがないほうがいい〉とか統計学みたいなものとは関係なく、バンドみたいに合宿形式で生々しくレコーディングできたのもポイントですね」。