早耳リスナーから大注目されているYufu(ユフ)の1stアルバム『Heal Me Good』。台湾を拠点とするソウル&ファンクミュージシャンYufuが70年代半ばのソウルへの愛を注いだ、温かいグルーヴと洗練されたメロディが魅力の作品だ。ベティ・ライト、ティミー・トーマスといったマイアミソウル、マーヴィン・ゲイ、リオン・ウェア、カーティス・メイフィールドらニューソウルの影響を強く感じさせる本作では、現代のアジアで生まれた音楽とは思えないほど本格的な歌と音楽性が聴ける。そんな『Heal Me Good』の、Yufuとも親交の深いJimmie Soulによる解説封入した国内盤CD(ボーナストラックも収録)と国内盤LPがリリースされる。そこで今回は、R&B/ソウルに造詣が深い音楽ジャーナリスト林剛に本作を解説してもらった。 *Mikiki編集部

YUFU 『Heal Me Good』 Zip/Kissing Fish(2025)

 

70年代ソウルのグルーヴや空気の再現に驚嘆

2024年末、SNSで繋がっていた台北の音楽ジャーナリスト、Brien John氏からダイレクトメールが届いた。私信を公開するのも気が引けるが、そこには〈台湾発の才能あふれるソウルアーティスト、Yufuをご紹介します。ソウルシンガー、ソングライター、マルチインストゥルメンタリスト、そしてプロデューサーとして活動しており、台湾ではこれまでに類を見ない存在です〉とあった。続けて、その音楽について〈1974年から1975年のソウルミュージックのスタイルを忠実に再現したサウンド、メロディ、アレンジ〉と書かれていた。そして、2025年1月に初のソロアルバムを出すという。Brien氏は、そのアルバムにアドバイザー的な形で関わっていたのだった(クレジットもされている)。

昨年11月に配信された先行シングル“Honey If You’re Extra“を耳にして思い浮かべたのは、グウェン・マックレーやベティ・ライトのようなマイアミソウルだ。70年代中期頃の陽気でレイドバックしたサザンソウルのフィーリング。ワウギターやホーン、カウベルなどの音色がマイアミの日差しや湿気を感じさせるようなこの曲を聴いて一発で虜になった。

続いて今年1月10日に配信されたシングル“When?“も、これまたマイアミソウル風。こちらはティミー・トーマスのようなリズムボックスを鳴らしながらリトル・ビーヴァー的なレイジーでメロウなグルーヴを生み出している。英語ネイティブのような発音と発声による、わざとらしさのない真心のこもったボーカルも説得力がある。70年代ソウルさながらのこんな音楽が2020年代の台湾からオランダのレーベルを経由して届けられたことに感嘆した。

そして、本国台湾では年明け早々の1月3日、日本を含むワールドワイドでは1月24日に配信されたアルバム『Heal Me Good』を聴いて感嘆は驚嘆に変わる。この30年近く、70年代ソウルのグルーヴや空気感を再現しようと国内外のアーティストが腐心してきたが、Yufuは格別、まさに類を見ない再現度だ。

アルバムの配信およびフィジカルリリースを受け持つオランダのレーベルとは、アムステルダムを拠点とするジップ・レコーズ。ここに所属するザ・ピューリッツァーズというオランダのバンドが好きでYufuみずからコンタクトを取ったという。ザ・ピューリッツァーズは2024年にオマーとのコラボシングル“I Don’t Want It Any Other Way“も出しており、ソウライヴに通じるジャズファンク的な音楽性は確かにYufu好みと言える。

そのジップ・レコーズからはCDとアナログが4月に出されるも、程なくしてソールドアウト。70年代の空気感を纏ったアルバムは、配信ではなくフィジカルで聴きたいというリスナーの思いの表れだろう。そこで輸入盤を扱っていたディスクユニオンの社内レーベルであるKissing Fishが、7月23日にボーナストラックを加えたCDを日本盤としてリリースすることになった(国内盤のアナログも9月に発売予定)。