(左から)小美濃悠太、鈴木瑶子、北沢大樹

昨年11月に発表されたファーストアルバム『Paths Intertwined』も話題を集めたピアニストの鈴木瑶子が、今度はトリオ編成による新作を発表した。アルバムタイトルは『umi』。全曲を自身のオリジナルナンバーで占め、小美濃悠太のベース、北沢大樹のドラムスと共に密度の濃い音世界を繰り広げている。これまで〈UENO JAZZ INN〉への出演、台湾のビブラフォン奏者デビー・ワン・バンドの台湾・ヨーロッパツアーへの参加、単独日本ツアーの開催などで、国境を超えて注目を集めてきた鈴木のトリオによる、演奏同様、息の合った会話をお楽しみいただけたらと思う。

鈴木瑶子 『umi』 Yoko Suzuki Music(2025)

 

人と人の縁が繋いだトリオ

――このトリオ結成のきっかけを教えていただけますか?

鈴木瑶子「メンバーの中で最初に共演を始めたのは大樹さんです。私が台湾ツアーに行ったとき、そのメンバーが大樹さんと一緒に演奏したことをずっと話していたんですね。そんなすごいドラマーと演奏してみたいと思ってInstagramをフォローして、2023年2月に初めて一緒にお仕事をしました」

――評判通りの素晴らしいドラマーだったという感じでしょうか。

鈴木「はい。初めて一緒に演奏したときに、こちらの考えていることを引き出してくれるというか、音楽全体を自分がやりたいものにぐんと近づけてくれる方だと思いました」

――小美濃さんが参加なさったのはその後ですか?

鈴木「あるライブのベーシストが決まらなくて、大樹さんに相談したら〈小美濃さんがいいんじゃないか〉と教えてくれました。その翌日、私は台湾の友達と飲み会に行ったんですが、その場に小美濃さんもいて初めてお話をして」

――その台湾のご友人と小美濃さんが知り合いだった?

鈴木「そうです。その飲み会で演奏をお願いしました。後日共演したライブもすごく楽しくて手応えがあり、本格的に共演を始めたのは去年の4月頃からだったと思います」

――ドラマーとベーシストの相性は、本当に重要だと思います。

北沢大樹「(小美濃とは)4つか5つぐらいのバンドで重なって演奏した時期があって、いい感じだなとお互いに思っていたので。僕は同時進行で瑶子のトリオでも演奏していたから、〈誰かいいベース、いないですか?〉と尋ねられて紹介しました」

 

共に育った横浜の海と陶芸作品に着想を得た“umi”

――そしてこの夏、トリオによるアルバム『umi』が発売されました。

鈴木「去年、クインテットのアルバム『Paths Intertwined』をリリースしてからこの3人でツアーを始めたこともあり、あまりその作品の発表から期間をあけずにトリオとしてのアルバムを出したいという気持ちがありました」

小美濃悠太「トリオの音が固まって、アンサンブルの中身が濃くなってきたところもあって、関西ツアーも決まりましたし、そのタイミングに間に合うようにリリースを決めた形でしょうか」

――『umi』というタイトルも、例えば〈sea〉のような外国語にしなかったところも含めて印象に残ります。

鈴木「私がずっと見て一緒に育ってきたあの横浜の海は、決して〈sea〉という感じではなくて……。最初からもう譜面に〈umi〉と書いていましたね。曲名を変えようという話もありましたが、2人にことごとく反対されたので(笑)。覚えてますか?」

北沢「別の候補がダサすぎたから(笑)」

鈴木「でも結果的には、〈umi〉でしっくりくる感じになったと思います。“umi”は、陶芸作品を見たときにインスピレーションを受けて書いた曲でもあるんです。丸いカップの外側に波打ち際っぽい描写があって、内側がものすごく深い青になっていて、その内側と外側のギャップが、自分がいつも海から感じているものと近いなと思いました」

――アルバムの1曲目は大体ガンガン盛り上がるものですが、“umi”は静かに、聴き手に〈これはどう発展していくんだろう?〉と考えさせるような感じで始まります。

鈴木「“umi”に関しては、ピアノのパートはすべて記譜しています。そこに2人がどういうことを付け加えていくのか私にはわからないけれども、きっと大樹さんならこういう情景を描いてくれるだろうなとか、小美濃さんの弓の音ならきっとすごく深い感じにいくだろうなという予想はできました。ピアノに(ベースで)絡んでほしいパートもありますが、その音符を私が書いてしまったらもったいないなと思って、あえてその部分を書かないで小美濃さんに〈好きに絡んでください〉という無茶ぶりもしました」