
秘密を内包して具象と抽象のはざまを漂う、ピアノ・トリオ・サウンド
耽美的なタッチのピアノの詩人ジュリアン・ショアが、マーティン・ネヴィン(ベース)とアラン・メドナード(ドラムス)とのトリオでの2作目をリリースした。さらに深化したインタープレイを聴かせてくれる。

タイトルの『Sub Rosa』とはラテン語で〈薔薇の下〉を意味し、天井に薔薇の花を彫り、宴席での話の秘密厳守を求めた古い習慣から、〈秘密裏に、内密に〉という意味を持つ。ショアは、このタイトルで、具象と抽象の間を行き来する自らの音楽が発する、秘密のメッセージを表している。画家である母のタイヨ・ホイザーによるカバー・アートでも、具象と抽象のはざまを描いて、アルバムのコンセプトを具現化している。
ショアが目指す、具象と抽象が複雑に混在する音楽の理想は、2023年に逝去したウェイン・ショーターの演奏である。ショアは、バークリー音大時代に短期間ながらショーターに師事し、多くの啓示を受けた。「ウェインが常に探っていたのは〈未知なるもの〉であり、その中にある美しさだったのです」と、ショアは回想する。ショーターの抽象性は、本作に大きな影響を及ぼしており、ショーターの生涯におけるメッセンジャーとしての役割を象徴した“Messenger”、ショーターの最期の言葉とされている「新しい身体を手に入れて、使命を続ける時がきた」という一節が“Mission”を産み、短いエンディング・チューンの“Pegasus”は、ショーターの晩年の作品の抜粋を含んでいる。具象を象徴する曲として、スタンダードの“All The Things You Are”とデューク・エリントンのブルース、ビーチ・ボーイズのカヴァーの“Don’t Talk (Put Your Head On My Shoulder)”を、プレイしている。オリジナルでは、ショアの現実世界での体験がコードのように組み込まれ、具象と抽象のはざまを美しく漂う。
多くの秘密が込められた本作は、ジュリアン・ショア・トリオのケミストリーによって、リスナーに音の奥深くに隠された意味を探る、貴重な音楽体験をもたらしている。