ハイブリッドな音世界
これほどまでにオーレがAOR路線の軌道上をスムースに走行してみせたことはかつてあったっけ?なんて思いを巡らせたくなるほど、このノルウェー生まれのシンガー・ソングライターの持ち味が遺憾なく発揮された感のある『Sleepwalking Again』。もちろんいずれの楽曲もさまざまなエッセンスが密接に絡み合ったハイブリッドな作りになっているのが特徴で、メロウさとブルージーさの塩梅が絶妙な“The Feathered Man”を筆頭に、元ネタ云々といった部分を超えて有無を言わせぬ説得力を持って迫ってくるところが素晴らしい(とか言いつつも、この曲が備え持つスティーリー・ダン的なテイストはこのうえなく美味しかったりするのであった)。
ところで前作にも多く見られたけれども、現代の社会情勢に踏み込んだ歌詞が綴られた楽曲は今回も多く収録されており、表題曲などはその象徴的なナンバーだったりする。そちらでは鉄壁なコーラスワークのカラフルな拡がりぶりが実に魅力的で、シリアスなメッセージをより効果的に伝えるためのさまざまな試行錯誤の跡がところどころで読み取れたりもするのも興味深い。
あと注目したいのが、雄弁な語り口を持つオーレのギター・プレイの数々である。浮遊感を湛えたメロディーが光るバラード・ナンバー“While The City Sleeps”で披露するソロなんてこれまでになくソウルフルな響きを帯びていたりもするし、もっと長く聴かせてくれ!って気持ちに駆られてしまうこともしばしば。そんな彼のプレイヤビリティーが存分に堪能できる楽曲としてオススメしたいのが、フュージョンチックなインスト・ナンバー“Transit Fuse”だ。メロウさとアグレッシヴさを行き来しながらじわじわと緊張感を演出していく6分強のこのナンバーは、アルバムにメリハリを付ける効果を大いに発揮していて、精悍な表情で疾走していく様子が浮かんでくるようなオーレのプレイが無条件にカッコ良く、改めて惚れ惚れとさせられること請け合いだ。
〈Keep Movin〉のスピリットに則りながらソウル~R&B路線からふたたび向きを変えて、艶やかかつ躍動感に満ちたAORアルバムを作り上げたオーレ・ブールド。この次はいったいどんな表情を見せてくれるのだろう?と想像を巡らせることが彼を追いかけるうえで何よりの楽しみな事項であるということを改めて思い出させてくれるのが、この充実した『Sleepwalking Again』だと言っていい。そして、近々観ることができるだろう来日公演に向けての期待がいや増す作品となっていることも最後に付け加えておきたい。 *桑原シロー
オーレ・ブールドの作品を一部紹介。
左から、2022年作『Soul Letters』、2019年作『Outside The Limit』、2014年作『Stepping Up』、2011年作『Keep Movin'』、ベスト盤『The Best』(すべてVillage Again)
左から、ジェイ・グレイドンが在籍したエアプレイの90年作『Airplay』(RCA)、マイケル・オマーティアンが手掛けたクリストファー・クロスの79年作『Christopher Cross』(Warner Bros.)、ビル・チャンプリンが在籍したシカゴの86年作『Chicago 18』(Full Moon/Warner Bros.)