北欧AORをリードする人気アーティストが時代の空気を反映して綴った、かつてなくエモーショナルで骨太な魂の手紙――そのコンセプトに導かれた新しい魅力とは?
ルーツを投影した作品
「僕のソウルをサウンドやリリックで綴った手紙にして、それをみんなに届ける……この作品はそういうイメージで作ったアルバムなんだ」。
いわゆる北欧AORシーンの代表格として、日本でも人気を定着させているノルウェーのシンガー・ソングライター、オーレ・ブールド。現在の路線に転じた『Shakin' The Ground』(2008年)によって〈発見〉されたのがまだ〈AOR〉や〈シティ・ポップ〉といった言葉がモダンに再解釈されていない時代であったことを思えば、息の長い安定した活躍ぶりだといっていいだろう。そんなオーレが2019年末の前作『Outside The Limit』から約2年ぶりのニュー・アルバム『Soul Letters』を完成した。前作のリリース直後となる2020年の1~2月には滑り込みで4度目の来日ツアーも敢行した彼だが、帰国した頃は世界中でパンデミックが深刻な問題となった時期に重なる。いつになく短めのスパンでアルバムが届いたのも、ステイホーム期間の賜物なのかもしれない。
もっとも、そちらはそちらで長いキャリアを誇る(クリスチャン・)メタル・アーティストとして複数のバンドで活躍するなど多くの顔を持つオーレは、先述の『Outside The Limit』に前後して、マリア・ソルヘイムとルイ・ベオグルードとのトリオで北欧トラッド/フォーク作法のEP『Blatoner』を発表したり、コロナ禍に瀕した2020年4月にはゴスペル・エクスプロージョンとの“Together We Stand”も配信するなど、自身のバックグラウンドにある多様なスタイルを自由に表現する姿勢を変えてはいない。
その意味で、昨秋から配信してきた楽曲を軸とする今回の新作は、トラディショナルなソウル・ミュージックの要素を色濃くした作風こそソロ路線の常道から幅を広げた作りながら、決して突飛なものではない。フェイヴァリットにダニー・ハサウェイを挙げ、オーティス・レディングやアル・グリーン、マーヴィン・ゲイといった王道のソウル・レジェンドたちを好むオーレにとっては、これもまた自身のルーツや興味の一側面を自然に投影した作品なのだ。
「もともと今回のアルバムはこれまでの作品とは違うものにしようと考えていたんだ。曲を作っていく過程でアルバムのコンセプトがソウル・ミュージックにこだわった方向性になっていったのは、とても自然な流れだったと思う」。