風はいつだって北欧から吹いてくる……シリアスなメッセージもフュージョン・タッチのギター・プレイも兼ね備えて、この男が王道のウェストコースト・スタイルで帰ってきた!
清々しいまでのAOR回帰
オーセンティックなソウル・フィーリングを色濃く打ち出したオーレ・ブールドの2022年作『Soul Letters』。バックグラウンドにあるゴスペルやブルースなどのスイッチをオンにしながらエモーショナルな表現をめざし、彼のキャリア史上ベストといってもいい骨太なヴォーカル・アルバムを作り上げてくれたわけだが、いかなる場合においてもみずからの音楽性を構成する多様なスタイルを自由かつ自然に表現する姿勢をキープしていくことが何よりも肝心要だったりするのだな、と、“Keep Movin”などのキャリアを代表するナンバーをアコースティックなスタイルで再演した配信EP『Revisited Sessions』(2024年)に続いて届けられたニュー・アルバム『Sleepwalking Again』を聴きながらつくづくそう感じ入った次第。
思えば、マイケル・オマーティアン、ビル・チャンプリン、ジェイ・グレイドンをフィーチャーした2023年発表のシングル“Find The Way”(今回日本盤のみのボーナス・トラックとして収録されている)。US西海岸ロック・シーンに名を刻む御大たちと共に実に愉しげに王道のAORスタイルを追求してみせたあの曲こそ、『Sleepwalking Again』の完璧な予告編だったのだといまは強く実感できる。つまりこの約3年ぶりとなる新作における彼はというと、清々しいまでにAOR趣味や80sポップ・ロック嗜好を全開にしており、〈渋い〉といった感触が時折ふっと横切っていったりする前作とは、温度感や質感といった面が大幅に異なる内容となっているのだ。
例えば、入り口に置かれた“Caught In The Middle”はどうか。思いっきり突き抜けていて視界良好なこのイメージって、確か2019年の快作『Outside The Limit』を初めて聴いたときに出会ったような気がするな、なんてことをふと考えたりしてしまう、そんなオープニングが用意されている。ハジけるような爽快感を放つオーレのヴォーカルは、モノクロで硬質なジャケット・デザインが醸し出している雰囲気とはいわば真反対。でもって、まっすぐとも言うべき正攻法的なサウンド・アプローチは、シカゴか? それともエアプレイか?といったソリッドなホーン・セクションが鳴り響く2曲目の“Perfect Polaroid”においても確認できる。ザクザクしたギターのダウン・ストロークが熱いタテノリの“Echo Chamber”などはTOTOあたりのメロディアスなロック・チューンを彷彿とさせるし、〈新世代北欧AORの旗手〉というキャッチフレーズを背負って登場したオーレにときめきを覚えたタイプのリスナーにとっては、顔の筋肉が終始ユルユルになるような展開が繰り広げられていくだろう。