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メロディは情報過多な社会に振り回されず、自分をつなぎ止める碇

――そして、『Where We Are』はパンデミック後の世界に向けてリリースされたアルバムですが、テーマが〈孤独から連帯へ〉となっていますね。ヒーリングされるだけでなく、そこから一歩進んで、希望を見出すといった要素を音楽からも感じます。

「『Where We Are』はそもそも〈自分はこうだったけど、君はどう?〉という感じで、コミュニティを作りたいというアイデアが根底にあって。ドアをオープンにして、皆さんに入ってきてもらうようなイメージで曲を作りました。

とはいえ、演奏しているのは私ひとりです。そこで今回リリースした『Unity Edition』では、それを聴いた人がどういうふうに感じたかを、自分以外のミュージシャンとのコラボレーションのような形で表現することにしました。ヘリオスやホリー・ケニフによるリワークがそれです」

――ミュージシャン同士の〈Unity〉でもあると。

「最近デジタルリリースしたシングルでは、“Solace”をアカペラボーカルグループのヴォーチェス8とロンドンの教会で録音しました。もう本当に、新しい絵の具で彩られていく感じがしましたね。

“Sanctuary”をバイオリンのエスター・アブラミと録音したシングルでも、新たなストーリーが生まれています。それはもう、〈チャド・ローソン〉ではない。そこにはたくさんの人が入って作り出す、別のストーリーがあるんだって」

――作曲をするときは、「頭に浮かんだメロディを鍵盤に触れる前に歌ってみて、口ずさむことができなかった曲はボツにしている」と以前おっしゃっていましたが、今作にも印象的なメロディがたくさん登場します。ピアノ以外の楽器やアンサンブルとコラボレーションする際も、こうしたメロディの強さが、新しい可能性を拓いているように思います。

「ありがとう。自分にとってはメロディがすべて、歌えないメロディはメロディではないと思っています。好きな曲を友だちと、車の窓を全開にして大声で歌う。そのとき大事なのは、やっぱりメロディが歌えるかどうかですから。

じつは“Sanctuary”は、サッカースタジアムのチャント(サポーターが応援のときに歌う歌)からインスピレーションを得てメロディを書いたんですよ」

――それは面白いですね。

「情報過多な今の社会に生きていると、気を削がれるようなことがいっぱいあるじゃないですか。そのとき、自分にとって嫌だなと思う存在を否定するのではなく、それはそれとして認めつつも、振り回されないことが大切です。そのためには、自分をつなぎ止めてくれるアンカー(碇)のようなものが必要。それがメロディなのではないかと。

これは科学的に証明されていることですが、人間はメロディを口ずさむと、鼓動が少し落ち着くんだそうです。意識していなくても、たまたま音楽と出会い、耳にしたメロディを口ずさむ。すると、そこから感情が生まれていく――。自分の音楽が、そのきっかけになってくれたらと思っています」

――口ずさむと落ち着く、自分にとってお守りのような歌がありますが、実際にそういった効用があるとは興味深いです。

「そうは言いつつ、音楽には必ずしもメロディが必要というわけではなくて。今年5月にユニバーサル ミュージック グループとApple Musicがローンチさせた〈サウンドセラピー〉というプロジェクトに2年ほど前から関わっているのですが、リスナーを心地よい睡眠やリラックス状態に誘う音楽には、メロディがなくてフラットなものが適しています。

今制作中の私のニューアルバムでも、そういったメディテーションに近いような音楽に取り組んでいます。メロディのある音楽とない音楽は、太陽と月のように、その両方が必要なのではないでしょうか」