インタビュー

チャド・ローソン(Chad Lawson)『You Finally Knew』セラピストのように心に寄り添うネオ・クラシカルの旗手の静謐なピアノ

©Shervin Lainez

和歌に惹かれて書いた曲も~静寂を奏でるコンポーザー・ピアニスト

 コロナ禍のなか、ネオ・クラシカルと呼ばれるジャンルのソロ・ピアノ作品がストリーミング・サーヴィスで多く聴かれているという。このたびメジャー・デビュー・アルバム『ユー・ファイナリー・ニュウ』をリリースしたチャド・ローソンも、そのシーンで注目されるコンポーザー・ピアニスト。みずからの音楽を「傷を癒して元気を取り戻すことができる静寂の場所にしたい」と語るローソンの奏でるピアノには一切の虚飾がなく、セラピストのように聴く者の心に寄り添ってくれる。

 バークリー音大を2年で辞め、みずから率いるジャズ・トリオを組んで、90年代末には日本でも評判を呼んでいたローソン。しかし「僕はもともと内気でスポットライトや注目を浴びるのが嫌いで、ジャズ・プレイヤーの〈これだけ速く弾ける〉〈こんなにすごいことができる〉といった側面が苦手だったんだ。それで子どもの頃から習っていて、自分のルーツであるクラシックのピアノに戻り、聴く人が頭(mind)ではなく心(heart)で感じる音楽を作りはじめた」という。

 ショパンやバッハをはじめクラシック音楽は、ローソンにとってインスピレーションの源であるが、単なるカヴァーやアレンジではない。たとえば今作には“ロ短調のワルツ”“イ短調のバラード”“ニ長調のプレリュード”と題された曲が収録されているが、それらを作曲する際、ローソンはあえて紙とペンを使わず、頭に浮かんだメロディーを鍵盤に触れる前に歌ってみて、口ずさめなかった曲はボツにしていったそうだ。

 文学、とりわけ詩も、ローソンにとって大きなインスピレーションの源である。今作の曲の多くは、アメリカの詩人メアリー・オリヴァー(2019年に他界)の詩からタイトルが取られているが、日本盤のボーナストラック“アイ・ウィッシュ・アイ・ワー・クローズ”は、山部赤人の〈須磨の海人の塩焼き衣のなれなばか一日も君を忘れて思はむ〉という和歌に心惹かれて書いたのだというから驚きである。

 「この和歌から伝わってくる肌が湿ったような感覚に〈これだ!〉って思った。山部赤人は現代に生きている詩人だと思っていたんだ。ほかにも男女のことを詠んだ和歌があって、けっこうきわどい部分もあったりして(笑)。だから大昔の詩人だと知ってびっくりさ。どれだけ時代の先を行っていたかということだよね」

 日本語を勉強中だというローソン。「音楽には、僕の部屋を出たなら、聴いてくれる人たちの家に行き、その人たちのハートや魂に伝わるものであってほしい」という言葉どおり、彼の音楽は海を越えて私たちの心にしっかり届いている。

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