心と身体の不調に手を差し伸べる音楽

 自身の闘病体験をきっかけに、音楽の持つウェルネスケアへの効果について探究を続けるコンポーザー・ピアニスト。オリジナル楽曲をバックにメンタルヘルスや瞑想テクニックをテーマにしたポッドキャストでも人気を呼び、世界精神保健連盟(WFMH)の国連大使に任命された初のミュージシャンとしても活躍している。

 「自分の音楽が癌患者などの過酷な状況にある方の慰めになっていることを知って、それぞれが抱えている葛藤をみんなでシェアできる、ひとつのコミュニティみたいなものを目指して作ったのが2024年7月に発表した『Where We Are』です。例えば“Sanctuary”はまだ安全な場所をみつけていない人を救いたい気持ちで書いた曲。“Like The Stars In The Sky”は夜空を見上げている人に向けて、実は星の方も君を探していて会えるのを楽しみにしているよ、と教えてあげるような曲。誰もが決して孤独ではないというメッセージを込めたアルバムなのです」

CHAD LAWSON 『Where We Are』 Decca(2024)

 昨年5月には、ソロ・ピアノによる全11曲からなる本盤に12曲を追加収録したデジタル・デラックス版もリリース。オリジナルの新曲は2曲で、アンビエントなシンセを重ねた“You’re My Everything”と、もう一方は世界精神保健デーのために書き下ろされた、リバーブ効果が加わった軽やかなナンバーだ。

 「“The Light Within”に込めたのは、探しているものは既に君の中にあって、余計なものを取り除くと見えてくるよというアドバイス。ピアノだけでも良かったのだけれど、新曲は、ただの目玉焼きにスパイスをかけたりパセリを散らすような感覚で味付けして提供したかった」

CHAD LAWSON 『Where We Are (Unity Edition)』 Decca(2025)

 旧曲を穏やかなフェルト・ピアノで再解釈した“Sleep Reworks”5曲も必聴だが、ポートランドの音楽家夫妻がそれぞれアレンジを担当して厳かな宗教音楽のように仕上げた4曲にも癒やされる。

 「英国のアカペラ・ユニットVOCES8をフィーチャーして教会で録音した“Solace (Helios Rework)”がいちばんのお気に入りです」

 ラストの“this is me trying”はテイラー・スウィフトのアルバム『フォークロア』に収録されたパーソナルな佳曲のカヴァー。過去の過ちや心の傷と向き合いながらも前に進もうとする彼女の〈想い〉が踏襲されている。

 「苦しみを乗り越えて向こう側に行けたら、ダメージも名誉の負傷になる。私も音楽でその手助けがしたいのです」