「先ず楽器=声をしっかり保ち、どう言葉と心を乗せるかが大事です」
ソプラノ歌手の天羽明惠が2025年11月1日、東京オペラシティの〈Vol. 5〉で〈ドイツ歌曲シリーズ〉のリサイタルに一区切りをつけるのに先立ち、2枚目のアルバム『シューマン:女の愛と生涯&レーナウ歌曲集』(AA Classics)をリリースした。30年以上のキャリアを持つが、高音の輝きと巧みな言葉さばきは、一段と冴えを増している。
先ずは〈長持ちの秘訣〉を聞く。
「毎日の練習です。宗教曲、歌曲、オーケストラとの共演、国内外歌劇場のオペラ出演、地方公演などの日程が絶妙のタイミングで組まれ、舞台の上で学ぶことも多いです。エディタ・グルベローヴァさんが70歳少し前にハンブルクで歌ったヴィオレッタ(ヴェルディ『椿姫』の主役)に接し、重い役と軽い役をちゃんと組み合わせれば〈私も長く歌うことができる〉と確信しました」
ピアニストやヴァイオリニストなどの器楽奏者と異なり、歌手は自分の楽器=声を客観的に聴くことができない。長く指導に携わったサントリーホールのオペラアカデミーでは「お互いの声を確かな耳を持っている人とともに聴き合う」ことを重視した。天羽自身もバリトンの太田直樹(故人)、メゾソプラノの小山由美ら「信頼できる耳」に助けられてきた。
「楽器である肉体は絶対に維持しなければなりません。次にドイツ語やフランス語の歌詞に対して楽器をどう使い、音に載せるかのテクニック、さらに心情をどう載せるかの工夫がきます。とにかく自分の声を観察しながら、調整していくのです」
〈ドイツ歌曲シリーズ〉は2023年に開始。日本語の字幕は出さず、天羽自身が大意を語りかけ、歌ってきた。
「ドイツ語の美しさ、ドイツ歌曲の世界を音として、確かに受け止めてほしいと考えました。皆さんシューベルト、シューマンはご存知ですが、プフィッツナーやコルンゴルト、ライマンは馴染みがありません。よく知れられているもの、そうでないものを取り混ぜ、リート(ドイツ語歌曲)の世界を究めてきたのです」
CDと今回のリサイタルのピアノは、ノルウェー人のジークムント・イェルセット。
「1995年、オスロのソニア・ノルウェー王妃記念第3回国際音楽コンクールで第1位をいただいた際の公式伴奏者でした。最初から音楽も気も良く合い、以後ずうっとリート・デュオのパートナーです。それぞれの作品への適確な様式感、声の生理を知り抜いた技が素晴らしいと思います」
